ネガティブなことは経験からしか学ばない
日本ロレアル勤務。日本法人の経営戦略立案と関連する情報収集を行う。
楠木 橋本さんは部下に対してどうなんですか?
橋本 僕はですね、基本的に、極力何もしないんです、指導もしないですね。
楠木 藤沢久美さんモード(『最高のリーダーは何もしない』の著者の名前)じゃないですか。
橋本 やっぱり、上から、やんやん言われても、腹落ちしないですよね。結局、その成果をどこかほかのお客さんのところなどに持って行って、そこで総スカンを食らう。それが一番の劇薬というか。テクニカルの面でもマインドの面でも、変える材料になり得るのかなと思っています。
さすがに最低レベルの基準はあるにせよ、たぶんこれ40点ぐらいだから、総スカンだなと思いながらも、「はい、どうぞ」と言って送り出す。
楠木 さすがに皆さん、手練手管に長けてらっしゃいますね。
いろいろなやり方があるにせよ、結局は経験しないと絶対に学ばないですよね。人間、経験から学ぶって言いますけど、特にネガティブなことは経験からしか学ばない。だから、いかにインパクトのある経験を、本人自ら得られるようにするのかが大切だと思う。おそらく口で言ってもしょうがないですよね。
和田 たしかに。でも、そこはダメなところなんですよね。自分の中のおばちゃんがしゃしゃり出て、あとですごく反省するんです。過保護というか、おせっかいが過ぎるというか…。
楠木 それはやっぱり、仕事によくないですよ。本人にやらせて、身をもって味合わせないと。
和田 ですよね。上司の仕事って、自分の手と足を縛って口にマスクをして、じっとしていることだと痛感しています。黙って見守るって、とても難しいんですが…。
才能を愛し、不才を憎む
楠木 僕は人間の才能をすごく愛するタイプで、才能のある人には親切にするほうですね。自分でも面白いし気持ちイイから。でも、裏を返すと、不才を憎むんですよ。こいつ、できねぇなって言って、もう絶対関わり合いたくないと思ってしまう方なんです。ま、ありていに言って僕の欠点ですね。組織で上司をやるのは向いてない。
シミック・アッシュフィールド勤務。外資系製薬会社を経て現職。新規事業の立ち上げやBPRを中心に行う。
丸山 私も、それに近いですね。最初のベースの能力を見て、標準偏差で上に伸びてもこのぐらい、下がってもこのぐらいのところにしか行かないよね、と思っているんですよ。ですので、最初の才能がすこぶる低かったら、伸びても伸び代が決まっているとしか、私は見てないんです。
楠木 ただし、才能のベクトルの方向は、360度色々なところに開いてはいるので、いま、たまたま不才でも、べつの分野での才能はあるかもしれないですね。
丸山 ありますね。どこかで線引きをしないと、悪い結果を招くんですよね。私の仕事であれば、あるプランをチームでまとめたりすることがあります。その際に、任せてみるけど、動かなくなったらシャレにならないです。
最終的に部下をまとめて、アウトプットを出さなければいけない時には、できる人、できない人のリソースをちゃんと見極めて、どこかからリスクヘッジしないといけない。そうしなければ、部として「おまえダメじゃん」に、なっちゃうんですよね。
楠木 そうなんです。いま僕はかなり手前勝手なことを言いましたけど。これがうまく機能するためには、資源が動ける自由度がないと成り立たないんですよね。
だから、あなたは向いてないから、別のことをやってと言う時に、その人が異動できる前提がなければならない。これが昔のみんながお米をつくってる時代であれば、米づくりに向いてないからといって、ほかの道がたくさん開けているわけではないんですよね。
ただし幸いにして、いまはどんどん、労働をはじめ、技術やコミュニケーションの手段の発達によって、社会のモビリティがあがっています。割り切ったやり方が、機能するような社会になってると思うんです。僕にしても「好きなようにしてください」って言いやすい。