下流老人にならないために、<br />若い世代がやるべきことは?<br />対談 第3回

“経営と財務のプロ”の立場から、ビジネスパーソンに向けて『一生モノのファイナンス入門 あなたの市場価値を高める必修知識』を上梓した朝倉智也さん。そして、4月に『平均寿命83歳! 貯金は足りる? 定年までにやるべき「お金」のこと——年金200万円で20年を安心に生きる方法』を書いた家計診断のプロ・深田晶恵さん。対談3回目は、この2人が「下流老人にならないために、若い世代がやるべきこと」について語り合います。

自分の稼ぎ力=「人的資本」を
育てていく視点が重要

深田 『定年までにやるべき「お金」のこと』では、主に40〜50代を対象に“下流老人”にならないための処方箋を書きましたが、もちろん20代や30代のビジネスパーソンにとっても将来への備えを考えていくことは重要です。この点、朝倉さんが『一生モノのファイナンス入門』で「人的資本」について書かれていたのが印象的でした。

下流老人にならないために、<br />若い世代がやるべきことは?<br />対談 第3回深田晶恵(ふかた・あきえ)
株式会社 生活設計塾クルー 取締役 ファイナンシャルプランナー(CFP)、(株)生活設計塾クルー取締役。1967年北海道生まれ。外資系電器メーカー勤務を経て96年にFPに転身。現在は、特定の金融機関に属さない独立系FP会社である「生活設計塾クルー」のメンバーとして、個人向けコンサルティングを行うほか、メディアや講演活動を通じて「買い手寄り」のマネー情報を発信している。20年間で受けた相談は4000件以上。日本経済新聞、日経WOMAN、レタスクラブ等でマネーコラムを連載、ほかにダイヤモンド・オンラインでの『40代から備えたい 老後のお金クライシス!』のネット連載も好評。主な著書に『30代で知っておきたいお金の習慣』『投資で失敗したくないと思ったら、まず読む本』『住宅ローンはこうして借りなさい 改訂5版』(共にダイヤモンド社)、『共働き夫婦のための「お金の教科書」』、『図解 老後のお金安心読本』(共に講談社)他多数。

朝倉 豊かな生活を送っていくために、資産運用について学んで実際に金融資産を運用していくことが助けになることは間違いありません。しかし、それ以上に重要なのは「自分自身が働いて稼ぐ力」、つまり「人的資本」を育てていくことです。

 特に若い世代にとっては、資産運用よりも人的資本を大きくして収入を増やしていくことのほうが、人生を豊かにするという点ではより大きな意味を持つと言えるでしょう。投資を始めると仕事がおろそかになるほどのめり込んでしまう人もいますが、あくまで仕事が「主」で投資は「従」。この本を読んでくださる方には、ぜひファイナンスの知識を活かして人的資本を大きくしていってほしいと思っています。

深田 確かに、財務部門や経営企画部門といった企業の中枢を担う部署ではファイナンスの知識が求められますよね。身に付ければ強い武器になるというのは、納得感があります。

朝倉 先日、この本を読んでくださった方とお話しする機会があったんですが、「ちょうど仕事でファイナンスについて勉強する必要に迫られて悪戦苦闘していたけれど、この本を読んでファイナンスの知識が仕事にどう活かされていくのかがよくわかった」という感想をいただきました。現場で活用していただいている生の声を聞けて、うれしかったですね。

深田 老後への備えという観点で考えても、「長く活躍できる人材」であることは大きな意味を持ちます。たとえばファイナンスの知識をつけて実務経験を積むことで、60歳で定年退職したあとも活躍の場を確保できれば、65歳、70歳と働き続けやすくなりますよね。稼ぎ続けられればその分だけ老後資金の取り崩しを遅らせることができますから、老後の生活設計が大きく改善します。

朝倉 その点、ファイナンスの知識は陳腐化しませんから学ぶ意義はより大きいと思います。最近は「今後、AI(人工知能)が多くの仕事を代替していく」という話がよく聞かれますが、ファイナンスの仕事は経営者の資質やビジネスモデルの可能性、保有する技術の価値などの目利きや、資金の調達方法や投資するプロジェクトの決定などで、人工知能に任せられる性質のものではないんです。

深田 特に若い世代の方には、お金を貯めることと人的資本を高めることを、将来への備えの「両輪」と考えてほしいですね。

朝倉 若年層には年金不信などもあって将来に漠然とした不安を抱いている方が少なくありませんが、「人的資本を高める」という視点を持つことで対処する方法も見えてくるのではないでしょうか。