組織人として、いかにゼロイチに向き合うか?

『ゼロイチ』(ダイヤモンド社)を書こうと思ったのは、ソフトバンクを退職してから、実に多くのビジネスパーソンからご相談をいただいたためです。その大半は、会社に勤める組織人として、いかにゼロイチに向き合えばいいかというものでした。

「どうしたら、会社のなかでゼロイチを実現できるか?」
「会社で新規事業を任されているが、なかなかうまくいかない」
「会社からイノベーションを起こせと言われているが、どうすればいいのか?」

 といった“個人目線”の相談もあれば、

「どうすれば、ゼロイチを生み出す人材を育てることができるか?」

 といった“マネジメント目線”の相談もありました。

 そのリアルな悩みは、つい最近までサラリーマンだった僕自身の悩みでもありました。『イノベーションのジレンマ』(クレイトン・クリステンセン著、翔泳社)でも明らかにされているとおり、すでに成功した事業をもつ会社のなかでゼロイチを成功させるのは、決して容易なことではないからです。

 それに、僕がやってきたことは、ほんのささやかなこと。iPhoneのような大成功を収めているわけではありませんから、ゼロイチに悩む人々が相談する相手として、僕が適任とも思えませんでした。しかし、皆さんとのディスカッションに刺激を受けながら、「組織人としてゼロイチを成し遂げるために大切なこと」について、僕なりの考えを深めていくことができました。

 その過程で、参考になりそうな書籍にも目を通しました。
 しかし、数多くあるイノベーションに関する書籍のほとんどは、起業家やフリーランス、あるいは研究者によって書かれたものでした。もちろん、それらもおおいに参考になりましたが、考えてみれば、読者の大半は会社に勤める組織人。これらの書籍は、必ずしも組織人の目線で書かれたわけではないので、読者が本当に知りたいことと必ずしもマッチングしていない面もあるように思いました。

 であれば、トヨタとソフトバンクという大企業でゼロイチにチャレンジする機会に恵まれてきた僕の経験と、そこから得られた教訓を一冊の本にまとめることには、多少なりとも意味があるかもしれない。しかも、大企業を飛び出したばかりのタイミングで書かなければ、今まさに悩んでいるビジネスパーソンのリアルな悩みに応えるような内容にはできなくなるだろう。そう考えて、僭越ながら『ゼロイチ』を書くことにしました。