下のクリントン氏の半生をご覧いただきたい。イェール大学ロースクール、弁護士、ファーストレディー、国務長官と、その輝かしい経歴はエスタブリッシュメントそのものだ。だが、それが逆にクリントン氏の弱点になっている。「既存のエスタブリッシュメントが何をしてくれたのか」と反感を持つ、前述のエミリーさんのような人々は少なくない。
コロンビア大学のジョセフ・スティグリッツ教授が「最上層1%の人間が所有する富が、米国の富の30~40%に達している」と述べているが、リーマンショック後の景気拡大期にあって恩恵を受けた一部の富裕層とそうでない層との格差が広がっている。
特に恩恵を受けていないのが若者だ。米国では学生ローンを使って自費で大学に行っている学生が多い。その後、うまく仕事が見つからなければ、学生ローンの返済負担が重くのしかかる。学費が高いこともあって、学生ローン残高は1.2兆ドルと、オートローンより規模が大きい。そんな若者たちに、サンダース氏の「授業料無料」の言葉が響くのも無理はない。たとえ財源の当てがない非現実的な公約であってもだ。
サンダース氏の選挙戦略の特徴は、クリントン氏の強みを弱みに変える点にある。
例えば、集金力だ。大統領選の候補にとって、集金力は勝つために欠かせない要素の一つ。「カネが左右する大統領選挙 クリントンは集金力が仇に」で示したように、民主・共和党の候補の中で最も集金力があるのはクリントン氏だ。しかしサンダース氏は「自分は個人献金で賄っているが、クリントン氏はウォール街から献金を受けている」と批判し、「クリントン氏=エスタブリッシュメント」を強調する。
もう一つ、クリントン氏の強みを逆手に取っているのが、国務長官時代に推進した環太平洋経済連携協定(TPP)だ。
ミシガン州フリント市は、ゼネラル・モーターズ(GM)発祥の地で、同社が破綻してからは経済が振るわない。2年前に財政難から水源を変えたところ、水道水が鉛に汚染され健康被害も出た。
3月6日、フリントで行われた民主党候補の討論会で、クリントン氏と直接対決したサンダース氏は、水道水汚染の直接の原因は市の財政難にあり、その背景には自動車産業の衰退をもたらした自由貿易があると主張、喝采を浴びた。
こうした戦略が奏功し、ミシガン州では、事前の世論調査でクリントン氏が37ポイントもリードしていたにもかかわらず、サンダース氏が大逆転で勝利した。
それでも、クリントン氏が依然として大本命の候補であることに変わりはない。「メール問題で訴追の可能性 険しい女性大統領への道」ではそのクリントン氏の死角を検証する。