出世のスピードは質問の多さに比例する

 ところが、数千人の経営トップを対象にした、とても興味深い最近の調査結果がある。最も創造的で、成功しているビジネスリーダーの多くは、専門家と言えるほどの卓越した「質問家」(クエスチョナー)だというのだ。

 彼らは、当たり前のように業界の既成概念、自社の習慣、さらには自分自身が定めた前提条件の有効性にさえ疑問を抱く。

 にもかかわらず、成功スピードが鈍るわけではなく、むしろ「(その疑問または質問が)会社に活力を与える」。

 これを指摘しているのは、クリステンセンとジェフリー・ダイアー教授とともに、革新的な経営者のあいだでは、質問をすることが重要な成功要因だとする研究論文を書いたインシアード(欧州経営大学院)のハル・グレガーセン教授だ。

 実際、正しい質問をする能力を備えたビジネスリーダーは、急速に変貌する市場に順応できるとグレガーセンは指摘している。探究心があると、競争相手が気づく前に新しい機会や可能性を見つけ出せる。

 つまり、会社内で出世するには、以前なら「何でもわかっている」ように見せる必要があったが、今日では、少なくともビジネスの最先端の現場では、よく質問する者にこそ役員の座が待っているというわけだ。

 以上をすべて考慮すると、次のような質問をせざるを得なくなる。

Q:イノベーションのためには疑問を抱く/質問をすることが出発点だと知っている(あるいは少なくともそうではないかと強く思っている)のなら、企業はなぜ質問を積極的に受け入れないのだろう?
Q:なぜ企業は社員が質問できるように教育し、質問をし続けることを促すようなシステムや環境をつくらないのだろう?

 この問いに対して考えられる一つの答えは、質問は権威に刃向かい、確立された仕組み、プロセス、システムを混乱させるものであり、質問をする、あるいは疑問を抱くと、現場の人たちが前例とは違ったやり方を検討しなければならなくなるから、ということではないだろうか。

 そしてこれは非営利組織がなぜ多くの疑問を抱かないのか、そして学校がなぜ質問を教えたり促したりしないのか、といった疑問への回答にもなりそうだ。

 質問を促したり許したりすることは、質問者に権限を譲ることにほかならない。これはタテ社会の企業や政府機関、あるいは学校の教室でさえ気軽に採り入れられるシステムではないのだ。たとえば学校で質問を促そうと思えば、先生方は生徒たちに対する統制権を積極的に放棄しなければならない。