質問は脳に負荷がかかる

 疑問や質問のきっかけをつかむことは簡単ではない。だからこそ、人は日常生活の中でそうそう疑問を抱くことはなく、必要なだけの質問もしない。

 疑問を投げかける必要を感じずに日々を送れれば、そのほうが明らかに楽(質問に否定的な経営者に言わせれば「効率的」)だ。そのように振る舞うことは自然で、理に適ってもいる。

 神経学者のジョン・クーニオスによると、人間の脳は「心理的な負荷」を減らす方法を知っており、その一つが、どんなときでも自分の周りで起きていることの多くについて、疑問を抱かずに受け入れる(あるいはたんに無視する)ことだ。

 事なかれ主義で生きていると、精神的なエネルギーを節約でき、同時に複数のことに取り組むことができ、日々の単調な仕事を乗り越えられる。

 ところが、日常生活を改善し、変化を引き起こそうとすると、慣れ親しんできた思考パターンや安易な前提条件から抜け出すことが必要になる。踏みならされた道から外へ出なければならない。そして多くの場合、私たちは「疑問/質問」によってその一歩を踏み出す。

 今日のように変化の激しい時代には、事なかれ主義よりも、周りに問いを発しようと身構える時間を増やさなければならないのかもしれない。

 つまり、変化する環境に順応し、新しい仕事にチャレンジし、生活や仕事、引退についての古い考えを見直し、優先順位を再検討し、創造的であるために、あるいは自分の生活や他人の生活に起きるさまざまな問題を解決するために、新たな道を求めることに時間を費やすのだ。

「私たちは『変化し続ける時代』に突入したのだ」と未来学者のジョン・シーリー・ブラウンは指摘している。

 大きくて、意味深く、美しい質問をできることと、そのような質問を投げ掛けられたらどう対処すべきかを知っておくことは同じくらい重要だ。そのような能力を身につけることは、古い習慣や行動を乗り越えて新たな発想を受け入れるための最初のステップになり得る。

3つのアプローチ「なぜ?」「もし〜だったら?」「どうすれば?」

 どうすれば質問する能力を開発し、伸ばせるのか?4歳のときに持っていた「教えて!」という熱い情熱を再び燃え上がらせることは可能なのだろうか?

 私は、100人を超える科学者や芸術家、エンジニア、映画製作者、教育者、デザイナー、社会起業家、そしてビジネスで革新的な偉業を遂げた人々を訪問し会話を重ね、質問をしたり問題を解決したりする方法についての意見を聞いた。

 また、疑問を抱き、質問をすることがキャリアやビジネスにどのような影響を与えたかを聞いた。ある疑問がきっかけとなって人生が変わったという人がいたり、多くの人が問うことの意味合いや技術、ヒントについて語ってくれた。

 こうしたインタビューに加えて、創造性やデザイン思考、問題解決に関するこれまでの理論から発想を借りたり影響を受けながら、私は世の中や人生を左右するような「美しい質問」をするための、「なぜ?」「もし〜だったら?」「どうすれば?」という3つのアプローチに気がついた。

 もっともこれは、正確な意味での「公式」ではない。疑問を抱くことに公式など存在しないからだ。むしろ、問うという行為のさまざまな段階を通じて私たちを導いてくれる一つの枠組みと言ったほうがいいかもしれない。

 意欲的で、周りに影響を与えるような問いは、論理的に展開していくことが多い。目の前の状況から一歩下がり、違った視点から眺め、それから特定の問いに基づいて行動を起こす、といった流れをたどることになる。

 問い続け、ついには(できれば)変化を起こせるはずの旅は、途中で落とし穴に落ちたり迂回路に迷い込んだり答えが見えなくなったりして、なかなか目的地にたどりつけないかもしれない。

 それゆえ、疑問/質問の技術を、ステップ・バイ・ステップで体系的に身につけていくことは役に立つはずだ。最も優れたイノベーターは、答えをすぐに得られなくても道に迷うことなく、次の疑問探しに夢中でいられる。