実は女性の方がリーダーにふさわしい

【入山】アメリカの高名な心理学者アリス・イーガリーは「これからは女性のほうが優れたリーダーになりやすい」ということを語っています。これは、今後ますますトランスフォーメーショナル・リーダーシップが求められるようになってくるからです。

【藤沢】それは一女性としても興味深いです。

【入山】そうです。トランスフォーメーショナル・リーダーシップにもいくつかの要素があるんですが、全体としては女性のほうが高い数値が出ているんです。変革型のリーダーシップでは、新しいアイデアをつねに持ち込んで、知的好奇心を与え、モチベーションをいかに高めるかが大事。それって、一種の「母性のリーダーシップ」ですよね。

【藤沢】私もじつは、これからは女性のほうにリーダー適性があるのではないかと思っています。その理由はまさしく「女性性」というよりも「母性」なんですよね。

【入山】あたたかく見守る。

【藤沢】そう。子どもは同じ親から生まれても、みな個性が違う。それぞれに的確な助言をし、将来性を信じ、言葉にして励ますことができるのは、母です。本には書きませんでしたが、トップ経営者たちにインタビューをしていて、じつは面白い共通点を発見したんです。トップリーダーの方たちって、かなりの割合で、小さい頃に母親から「あなたは将来人の役に立つ仕事をする」「あなたは大きくなったら立派な人になる」と言われているんですよ。

【入山】へえ。そうなんですか!

あのリーダーは「がんばれ」をどう言い換える?<br />入山章栄×藤沢久美 特別対談【後編】

【藤沢】男親はどうしても理性が先に来てしまって、なかなかそういう言葉を我が子に発したりはしません。一方、母親というのは、無邪気にそういうことが言えてしまう。そして、これが子どもにとっては、ある種の「言霊」になるんじゃないかなと私は思っています。
21世紀は女性の時代になると言われますが、私はむしろ「母性の時代」になるんじゃないかなと思う。ですから、男性のリーダーでも、内なる母性を発揮できる人はリーダーとして成功すると思います。

【入山】世界で2万人が登録している、アカデミー・オブ・マネジメントという経営学の学会があるんですが、3~4年前の年次総会のテーマは「コンパッション(共感、思いやり)」でした。今、経営学者はコンパッションに注目しており、藤沢さんのお考えに通じるものがあるかもしれませんね。

期待される
女性の起業と成長

【入山】一方で、アメリカでもまだまだ女性の起業家は少ないですよね。藤沢さん自身、1人の女性起業家として「女性はもっと起業したほうがいい」と思いますか?

【藤沢】思います。女性起業家の数も多くないし、もっと言えば、起業しても会社が大きくならない。その点も気になっています。これには何か外的な要因があるのか、それとも生来のものなのか……私は前者ではないかと思っています。そういうトレーニングを受けていないからであり、文化を変えていかなければならないなと。

【入山】女性はそもそも会社を大きくすることを目指していないのかもしれませんし、一方では、社会の偏見もあるかもしれせんね。学者の論文についても、執筆者名を伏せておくと女性の論文のほうが高く評価されるけど、筆者の名前を公開するとそうではなくなる、というような研究があります。

【藤沢】その意味では、『最高のリーダーは何もしない』も、オビに私の写真を出さなかったのは結果的によかったのかもしれないなと思っています。パッと見たときに、著者が女性なのか男性なのかということがあまり気にならないデザインにしていただけたなと。

【入山】アメリカでも女性がCEOに就任すると発表した瞬間に株価が下がる、という報告があります。また驚くべきことに、女性のほうが女性を差別する、ということも研究されています。

【藤沢】なんとなくわかる気がします。いずれにしろ、これからますます女性のリーダーが活躍する時代がくることを期待したいですね。入山さん、今日はありがとうございました!

(対談終わり)

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