日本のリーダーシップが
世界の主流に

【藤沢】実は私、日本のリーダーシップスタイルが、世界の主流になっていくのではないか、と思っています。その源流は、前回話したような100年企業だったり、天皇家だったりにあるんですが。

【入山】賛成です。少し別の言い方をすると、海外のトップやシリコンバレーの経営者が苦労して探し求めてきたことと、日本企業の昔からある良さが近づいてきている。
逆に、日本では欧米流の「選択と集中」をやってしまった大手企業が「周回遅れ」的に苦しんでいるような状況も見受けられますが……。ぶれなかった同族企業のほうが結果的には業績がいい、ということが起こっている。

【藤沢】欧米の企業がそう変化してきたのは、社歴が長くなってきたからですか?

【入山】それもありますが、むしろ、長く続いている会社ほど、そういうリーダーシップを取り入れているということだと思います。アメリカ企業も、かつては多くが家族経営でしたが、ここ数十年で労働の流動化が急速に進みました。人が頻繁に企業を移るようになると、どうしても企業の核となるもの、つまりビジョンが必要になります。彼らも試行錯誤した結果、その真実にたどり着いているんだと思いますね。

あのリーダーは「がんばれ」をどう言い換える?<br />入山章栄×藤沢久美 特別対談【後編】

【入山】たとえばデュポンという会社は、ファミリー企業からグローバル企業になり、100年ビジョンを毎年つくっています。各分野の一流の専門家を呼んで、100年先の世界はどうなっているか議論し、そこから逆算して100年ビジョンを考えています。
100年先をはっきりと見据えるので、たとえいま儲かっている事業でも、ビジョンに合わなければ捨てる。逆に、ビジョンに当てはまるようであれば、アナリストからすればとても理解できないような企業を買収する。それが将来的に果実になると考えているからです。

【藤沢】すばらしいですね。

【入山】GEもそうです。家電事業を売り、金融も売却して、IoTを中心に据えた。IBMも10年以上前にパソコン事業を売った。長期的なビジョンがあるから、それができるのです。

【藤沢】つまり、100年スパンでの効率性を目指している、ということですよね。日本の3ヵ月決算のように短期的な効率を考えている限り、果実を生むまで時間がかかるものを買うという意思決定はできません。しかし世界のトレンドは、長期での効率性を求める方向に向かっている。

【入山】おっしゃるとおりです。イノベーションには「知の探索」と「知の深化」が必要です。探索はコストがかかるし、多くは失敗するので、アナリストからみると「やらないでほしいこと」なんです。でも、企業はそれをやらないと、長期的には成長できないし、イノベーションも起きない。
デュポンなどはそういうことを仕組みとして取り入れていますが、かつての日本企業ではそれが当たり前のようにできていたんだと思います。

【藤沢】まったくそのとおりだと思います。

【入山】以前、「中期経営計画という病が企業をダメにする」という記事を書いたら、けっこう炎上しながらも、多くの人から反響をいただきました。

【藤沢】中期経営計画とか来年度予算とか、最悪とはいわないけれど…それ自体が目的化してしまうようなところがありますよね。企業によっては、ほとんど丸1年かけて中期経営計画を描いていたりする。これでは本末転倒です。以前に対談したロート製薬の山田会長は、「新入社員のことを考えたら、企業の100年先なんてリアルそのものだ」とおっしゃっていました。

参考記事
「○○社長→○○さん」ロート製薬が「役職呼び」をやめた理由
ロート製薬会長・山田邦雄氏に聞く!(第1/3回)
https://diamond.jp/articles/-/90245

【入山】以前から僕は「ロート製薬は普通の会社の10歩ぐらい先を行っている」と言っていたんですが、先日、初めて山田会長とご一緒させていただいて、それを確信しましたね。
ちなみに、経営理論の世界では「ロングターム・オリエンテーション」というのですが、ファミリー企業の経営者のほうが長期の目線になりやすいという研究もあります。