尖閣諸島沖の漁船拿捕事件を契機に、中国人観光客の減少が懸念されているが、根本的な問題は事件以前から来日者数のわりには観光地を持つ地方にお金が落ちていなかったことだ。中国事情に詳しいジャーナリストが、中国人向け観光ビジネスの構造問題を指摘する。

 日中関係に急速に暗雲が立ちこめ、日本の政府を「快く思わない」中国人が増えている。しかし中国人にとって「車」「デジカメ」「化粧品」「乳児用粉ミルク」「テレビゲーム」「アニメ」は“メイド・イン・ジャパン”なしでは考えられないのが現実。日本に怒り“抗日”を訴える中国の消費者もその大半は筋を通さず、「政治は政治」「モノはモノ」と割り切っているようだ。

 それは旅行とて同じ。先週は1万人の中国人団体客が日本への旅行をキャンセルしたことが大きなニュースとなったが、旅行意欲旺盛な中国人の訪日観光取り止めがこのまま中長期的に加速していくとは考えにくい。

 中国人観光客が注目される点は、なんといってもその規模だ。

 日本政府観光局(JNTO)の「2009年国籍別/目的別訪日外客数(確定値)」によれば、外国人観光客数は全体で前年比21.3%減の約476万人、地域別で見てもアジアで同25.9%減の約345万人、北米で同6.1%減の約59万人、欧州で同3.6%減の約50万人、オセアニアで同11.4%減の約20万人と散々な結果だ。

 しかし国別で見ると、中国は前年比5.7%増の約48万人と増えている(他ではベトナム・フランス・スペインなどが増えている)。さらに今年はビザ(査証)発給条件緩和の影響もあり、同じくJNTOの「2010年訪日外客数(総数)」によれば、6月の訪日中国人は前年同月比でなんと184.2%増の10万人強、7月は同143%増の16万5000人を記録した。

 中国人観光客は東京や京都、大阪を訪れたり、温泉に浸かったり、富士山を見たりするだけではない。筆者は先日、北海道・小樽を訪れたが、同地でも親族で旅行を楽しむ中国人観光客を多く見かけた。北海道をとりあげた中国のTVドラマなどの影響で、小樽は中国人にとって“行きたい日本の観光地”のひとつとなっているのだ。

 小樽といえば、運河と海の幸で知られるが、ガラス細工にも力を入れていて、そうした店が軒を連ねることで、外国人にも見どころを提供している。もちろん各店は中国人観光客を当てにして、中国のクレジットカードとデビットカードを兼ねた銀聯(UnionPay)カードのロゴマークを店頭に掲げ、また商品にはこれみよがしに“Made in Japan”の表示をつけている。しかしそれでも小樽では、秋葉原や新宿の家電量販店、銀座のブランドショップでよく見かける“いくつもの買い物袋を携えた中国人観光客”に出くわすことはなかった。