苦境でも心の安定を保つ──エクアニミティ

「というわけで今日は、とくにレジリエンスを鍛えるエクアニミティ(Equanimity: 平静)という方法を教えよう」

いつものように座って呼吸に注意を向ける。しばらくすると、〈モーメント〉の将来が気になってくるが、意識を再び呼吸に向け直す。瞑想を10分ほど続けると、ヨーダは私に語りかけた。

「うむ、では……気になっていること、不安に思っていることを、心に思い描いてみるんじゃ。不安を呼び出したら、心の中でこんなセリフをつぶやく。

『(世の中はそういうものだ)』

『(どんなこともありのまま受け入れられますように)』

これを繰り返すだけじゃ。マインドフルネスは扁桃体を鎮静化し、その下に続く視床下部-下垂体-副腎系を鎮める。副交感神経を優位にすることで、ストレスへの抵抗性と心のバランスをつくりだす。そしてもちろん、過剰なDMNの活動も鎮める。

それでも、平静が訪れなければ、それでもいいんじゃ。いまはそうであることを受け入れるようにすればいい」

わざわざ不安を呼び出さなくても、私の意識には先ほどから何度も〈モーメント〉の経営のことが浮かんできていた。これを「ありのまま」に受け入れるということのようだ。

「苦難でいかに自分を保つか、これは人生の大きな命題じゃが、肝心なのは、ほとんどの苦難は、将来への不安で水増しされとるということじゃ。目の前にあるトラブルというのは、それ自体では大したことはない。もちろんそうでないケースもあるがな。ただ、たいていの場合、心のレジリエンスを超える負荷というのは、いまここにはないところからやってくる。これは裏を返せば、いまここに集中することこそが、心の復元力を高めるための最もスマートなやり方だということじゃ。

ナツはウルトラ・マラソンを知っておるか?マラソンの何倍もの距離を走る競技じゃ。こういう苛酷な競技に臨むアスリートたちのメンタリティは、レジリエンスの本質に通じるものがあるな。継続性、終わりのない好奇心、失敗に対する恐れのなさ、大胆さ、苦痛に耐える力……さまざまな特性が指摘されとるが、やはり興味深いのは『目前の1歩1歩にフォーカスする力』じゃ[*03]。あまりにも長く苦しいその競技に疲れ果ててしまわずに、最後まで走り抜くためには、あえて遠い先を見ないで、いまここにフォーカスする能力が重要になる。マインドフルネスは走りながら休むための最高の方法なんじゃよ」

*03 Van Dusen, Allison. “Inside The Endurance Athlete's Mind.” Forbes (2008): http://www.forbes.com/2008/09/22/endurance-race-training-forbeslife-cx_avd_0922sports.html.

たしかに〈モーメント〉の先行きは明るくない。競合店がまもなくオープンするいまとなっては、むしろ見通しは「暗い」と言ったほうが正確だろう。

しかし、だからこそ将来のことを不安に思って、それに煩わされるのはバカげているのかもしれない。それではいたずらに脳や心を疲労させるだけだ。このままではいけないことがわかっている以上、何か対策を講じればいい。何もしないうちから、いちいち思い煩う必要などないのだ。