ひたすら「ギブ」を重ねることで、結果的に「テイク」が返ってくる
安渕 そこで立てた目標が、自分のセクションで開かれるすべてのパーティに呼ばれる人になろう、というもの。だからちょっと声がかかったら必ず行ったし、自分の家でも手巻き寿司パーティを開いたりしていました。
もちろん、相当な量の勉強もしてたんだけど、机に向かって一人で勉強していることがこの学校にいる本当の価値だとは思えなかったんです。
ムーギー 私も、インシアードというビジネススクールに在学中、各大陸に友だちをつくろうと思いました。それで、母親のミセス・パンプキンをフランスに呼んでご飯をつくってもらって、大陸ごとにクラスメイトを招いてホームパーティを10回以上開きました。
そうすると1回で呼ぶのはせいぜい10人ぐらいですから集中的な会話ができるし、その中のひとり、ふたりは「呼んでくれてありがとう」と恩に感じてくれるんです(笑)。このパーティによって、視野の広がる環境と、パーソナルな関係を築く機会を得られたと思うんですよね。
安渕 結局、何かをギブすることから始めないと、人間関係というのは始まらない。ギブ&ギブ&ギブぐらいやって、ようやくテイクがくる、と。だからまずはギブから始めようと。フラットとか謙虚というのは、ギバー(Giver)としての立場でもあるんですよね。
自分で自分のことをどれくらいわかっているか?
ムーギー さきに、人を育てる方法としては部下にストレッチした目標を与えることが大切だとおっしゃっていましたが、これについてもう少しお聞かせいただけますでしょうか?
安渕 一定の線を引いて、これを飛び越えられる人だけ残って、というやり方をしてしまうと、同じようなレベルの人しかいない会社になる。そうすると会社全体として、元気が出ないんですよ。たしかに高度成長期みたいな時代はそれで良かったかもしれない。
でもいま我々は、一人ひとりが自分の持っている能力を120パーセント出してほしいんです。社会には、能力の絶対値が100の人がいれば、150の人もいる。そこで100の人は120に、150の人は170になるように、それぞれストレッチしていく。強い会社とは、そういうことが積み重なってできているものだと思うんですよ。
ムーギー これは非常に重要なことですよね。できる子の伸ばし方と、そうじゃない子の伸ばし方は全然違うはずなのに、日本の場合は同じことをやらせている。では、できる人はもちろん、そうじゃない人でも屈折することなく頑張れるアプローチって、どのようなものでしょうか?
安渕 我々は社員に対して、「自分で自分のことがどれくらいわかっているか」ということをとても気にしています。人には、まわりから見て「あなたは本当はもっとできるでしょう」というようなタイプの人と、自分で「もっとこんなこともやりたいし、こんなこともできる!」と自分のイメージをしっかりと持っているタイプの人がいます。
前者のタイプの人には、「これをやったら、次はこういう目標がありますよ」と、記録が見えるかたちで伸ばしていくのがポイントです。いきなり難しいことをぶつけても、自分が伸びていっている実感を持ってもらえないですから。
反対に後者のタイプには、修羅場やトラブルなどの非連続の難しい課題をどんどんぶつけて、成功体験を増やしていく。このように心がけています。