ひたすら「ギブ」を重ねることで、結果的に「テイク」が返ってくる

安渕聖司(やすぶち・せいじ)[日本GE合同会社代表職務執行者社長兼CEO]  1979年早稲田大学政治経済学部卒、三菱商事入社。90年ハーバード・ビジネススクール(HBS)経営管理学修士(MBA)修了。三菱商事では、貿易金融、資金調達、財務運用、M&Aアドバイザリー、会長業務秘書、IR(財務広報)等の業務を東京、仙台、ロンドン、ニューヨークにて担当。99年、米国の投資ファンド、リップルウッドの日本法人立ち上げに参画。ファンド・レイジングの後、テクノロジー、化学産業を担当。2001年、UBS証券会社入社。投資銀行本部の運輸及び民営化のヘッドとして、JR西日本およびJR東海の完全民営化、J-POWER(電源開発株式会社)の民営化・東証上場等、様々な大型案件を手がける。06年、GEコマーシャル・ファイナンス・アジアに事業開発担当副社長として入社、07年9月にGEコマーシャル・ファイナンス・ジャパン社長兼CEOに就任。09年1月、GEキャピタル社長兼CEOに就任し、日本の金融サービス事業全般を統括。16年4月、三井住友ファイナンス&リースのグループ会社となった日本GE合同会社代表職務執行者社長兼CEOに就任。(日本GE合同会社は9月5日付で株式会社に組織変更し、商号を「SMFLキャピタル 株式会社」に変更。SMFLキャピタル株式会社代表取締役社長兼CEOに就任予定)

安渕 そこで立てた目標が、自分のセクションで開かれるすべてのパーティに呼ばれる人になろう、というもの。だからちょっと声がかかったら必ず行ったし、自分の家でも手巻き寿司パーティを開いたりしていました。

 もちろん、相当な量の勉強もしてたんだけど、机に向かって一人で勉強していることがこの学校にいる本当の価値だとは思えなかったんです。

ムーギー 私も、インシアードというビジネススクールに在学中、各大陸に友だちをつくろうと思いました。それで、母親のミセス・パンプキンをフランスに呼んでご飯をつくってもらって、大陸ごとにクラスメイトを招いてホームパーティを10回以上開きました。

 そうすると1回で呼ぶのはせいぜい10人ぐらいですから集中的な会話ができるし、その中のひとり、ふたりは「呼んでくれてありがとう」と恩に感じてくれるんです(笑)。このパーティによって、視野の広がる環境と、パーソナルな関係を築く機会を得られたと思うんですよね。

安渕 結局、何かをギブすることから始めないと、人間関係というのは始まらない。ギブ&ギブ&ギブぐらいやって、ようやくテイクがくる、と。だからまずはギブから始めようと。フラットとか謙虚というのは、ギバー(Giver)としての立場でもあるんですよね。

自分で自分のことをどれくらいわかっているか?

ムーギー さきに、人を育てる方法としては部下にストレッチした目標を与えることが大切だとおっしゃっていましたが、これについてもう少しお聞かせいただけますでしょうか?

安渕一定の線を引いて、これを飛び越えられる人だけ残って、というやり方をしてしまうと、同じようなレベルの人しかいない会社になる。そうすると会社全体として、元気が出ないんですよ。たしかに高度成長期みたいな時代はそれで良かったかもしれない。

 でもいま我々は、一人ひとりが自分の持っている能力を120パーセント出してほしいんです。社会には、能力の絶対値が100の人がいれば、150の人もいる。そこで100の人は120に、150の人は170になるように、それぞれストレッチしていく。強い会社とは、そういうことが積み重なってできているものだと思うんですよ。

ムーギー これは非常に重要なことですよね。できる子の伸ばし方と、そうじゃない子の伸ばし方は全然違うはずなのに、日本の場合は同じことをやらせている。では、できる人はもちろん、そうじゃない人でも屈折することなく頑張れるアプローチって、どのようなものでしょうか?

安渕 我々は社員に対して、「自分で自分のことがどれくらいわかっているか」ということをとても気にしています。人には、まわりから見て「あなたは本当はもっとできるでしょう」というようなタイプの人と、自分で「もっとこんなこともやりたいし、こんなこともできる!」と自分のイメージをしっかりと持っているタイプの人がいます。

 前者のタイプの人には、「これをやったら、次はこういう目標がありますよ」と、記録が見えるかたちで伸ばしていくのがポイントです。いきなり難しいことをぶつけても、自分が伸びていっている実感を持ってもらえないですから。

 反対に後者のタイプには、修羅場やトラブルなどの非連続の難しい課題をどんどんぶつけて、成功体験を増やしていく。このように心がけています。