「西」一強を支える構図
札幌市では東西南北を冠した道立高に人気があるが、東京でも東西南北を冠した都立高がつくられている。以前触れたように、大田区にあった「南」は閉校となり、跡地には10年前にビジネスコミュニケーション学科を持つ大田桜台が開校している。北区の「北」の跡地には1996年に初の全日制・定時制課程併置の単位制高校として飛鳥が創立され、グローバル10指定校として英語教育にも注力している。
現在でも残るのは、江東区にある「東」(1959年創立)と杉並区にある「西」(旧制10中)だ。西は、都の進学指導重点校に日比谷、国立(くにたち)、八王子東と共に最初に指定された都立を代表する進学校である。学区制の頃にはわざわざ転居してきて進学する例も見られた。単独選抜になってからはむしろ旧第3学区(中野区、杉並区、練馬区)以外からの生徒が多数派となっている。
西は新入生の出身中学や在校生の居住地分布を毎年公表している。現状の在校生分布を見ると、杉並区169人は地元だから当然としても、次いで世田谷区149人、同じ学区だった練馬区86人と続く。
興味深いのは4番目に武蔵野市と三鷹市が70人ずつで並んでいることだろう。前回、世田谷区の都立進学校不足に触れたが、西は世田谷区のみならず多摩地区東部のニーズを満たす存在となっている。
一方、かつては同じ学区だった中野区の在校生は20人と少ない。中野区にある武蔵丘(旧制21中)も進学校としてはぎりぎりの線で、迫力に欠ける。学校群では西と同じ32群だった富士(旧制5高女)は中学を付設して中高一貫校になっている。
日比谷を筆頭に現役合格率を上げることに熱心な高校が多い中、西のそれは52%で、卒業生の半分は浪人する。“四年制高校”といわれるゆえんでもある。埼玉トップの公立男子校浦和と相通じるバンカラな気風が残っているのかもしれない。京大出身の校長が就任したころから、京大合格者の伸びもうかがえる。
「自主・自立」「文武両道」を掲げる伝統校は多いが、「世界に通用する大きな器」を掲げているところが西の個性だろう。暗記中心の学習から脱却し、国際社会で活躍できる人間に育成しようというわけだ。都の次世代リーダー指定校でもあり、毎年10人前後は1年間留学する。
都からグローバル10や理数研究校、教室に整備されたWi-Fi環境を利用して生徒が自分の端末で学ぶBYOD研究校に指定されている。
多摩地区のトップ校である八王子東、急速に浮上している昭和(昭島市)の校長を経て着任した現校長は、全国高等学校長協会(全高長)の会長にも就任した。2019年から「授業で勝負」を合言葉に、2学期制を3学期制に改めている。