桜蔭学園のルーツでもあるお茶の水女子大学同窓会「一般社団法人桜蔭会」(東京・文京区)。中間組織として、学校の果たす役割は大きい

子どもの自立に重要な中等教育の6年間

 東京私立中高一貫校御三家(女子男子+駒場東邦)の算数入試問題の解説にもご登場いただいた石田浩一先生は開成中高の元数学教師で、現在はZ会で中高生を対象に東京大をはじめとする大学入試の指導も行っている。中学受験のために学ぶことが、大学受験からその後の人生にまでどのようにつながっていくのか、日々の指導を通して実感していることを、森上教育研究所の森上展安代表と語り合ってもらおう。

――2022年中学入試が終わりました。このタイミングで、なぜ中学受験をするのかということについて、新ためて考えてみたいと思います。

森上 中学受験を考えるご家庭は、お子さんを大学まで進学させることを前提に考えていると思います。中高一貫した教育で学び、自分の専門を見つけるための有意義な時間を過ごすために、憧れの中学を受験するという手近な目標を設けるわけです。

 これまでの30年以上に及ぶ中学受験の歴史を振り返りますと、親世代の頃は中学に入るための試験という性格が強かったと思います。いまでは、将来を見据えた中高一貫教育への取り組みという視野の広がりが保護者にある点が大きく異なると思います。

――中学と高校の中等教育の6年間で、何を得ることができるのか、その点への関心が強まっているわけですね。

森上 先日お会いした栄光学園の望月伸一郎校長は、新型コロナ禍で学校説明会ができなかったことが志願者減の一因だと指摘していました。学校に来て、見てくれれば「この学校に行きたい」となるのだが、と。

 中高一貫校という文化装置は、同じ学び舎に大学受験を控えた高3が控えているという意味で、成長モデルを眼前にできるというインパクトある形での効果があります。「あの先輩のようになる」といった初発の動機づくりは、親にはどうにもならないものですから。

石田 子どもの成長の全体を見たときに、部活動や学校行事を通した上下の関係は、ロールモデルの提供という意味ですごく大事だと思います。先日、中高一貫生から、コロナ禍で部活動の合宿ができなくて悲しいという話を聞きました。先輩との共同生活は楽しかった。だから後輩にも知ってほしい。今年の夏こそは合宿をやりたい、と。こういった意識が持てるようになるんです。一貫校での中高生間のつながりは子どもを大きく育てると思います。

森上 中学受験は、中高6年間という大事な時期に、ご縁のあった学校で、何の利害関係もないフラットな関係を結ぶ機会を与えてくれるものです。ともすれば分断が進む世の中で、こうした中間組織での経験は非常に大切なものです。

石田 受験を成長の過程の中で捉えることは大切だと思います。受験勉強の最中ではそれ自体が目的になってしまうのはある意味仕方ないのですが、でもそこで完成形に到達する訳ではない。育ち方も子どもの特性もさまざま。個々人で大きく異なります。あとでゆっくり伸びていく子だっています。中学受験は、中高一貫校という中間組織に入るためのはじめの一歩。そこから先で、子どもたちはいかようにも変わっていけます。

――子どもの成長に大きく寄与する点が、中学受験の第一の利点ですね。