「世界最大のオンライン書店」から「最もお客様を大切にする企業」へとミッション・ステートメントを変えたアマゾン。この新しいミッション・ステートメントにこそ、アマゾンの本質が表れている。今や既存企業を駆逐する代表的なディスラプター(破壊者)であるアマゾンの優位性とは何か?日本企業と決定的に違うところとは?グーグル、ソフトバンク、ツイッター、LINEで「日本侵略」を担ってきた戦略統括者・葉村真樹氏の新刊『破壊――新旧激突時代を生き抜く生存戦略』から、内容の一部を特別公開する。落合陽一氏推薦!

地球上で最もお客様を大切にする企業

 1995年、インターネット書店として設立されたアマゾンは、わずか2年後の1997年にはナスダックに上場した。このとき、アマゾン株についた初値は一株18ドル、アクティブユーザー数はわずか150万人であった。

 しかし、そのわずか20年後の2017年には、株価最高値1953ドル、アクティブアカウント数3億超になると、どれだけの人が予想していただろうか。1995年の設立時、アマゾンは自らの企業としてのミッションを「世界最大のオンライン書店になる」と定めていた。しかし、今や書籍以外がアマゾンの売上の大半を占めると考えられ、名実ともに、世界最大のオンライン商取引プラットフォームとなっている。

 そんなアマゾンであるが、現在は自らのミッション・ステートメントを設立時の「世界最大のオンライン書店」から以下のように変更している。

 Our vision is to be Earth's most customer centric company; to build a place where people can come to find and discover anything they might want to buy online.
 私たちのビジョンは地球上で最もお客様を大切にする企業であることです。私たちは人々がオンラインで買いたいと思うものすべてを見つけることができるような場所を作ります。

 アマゾンを単なるオンライン商取引事業者だと考えるのは大間違いだ。このミッション・ステートメントにあるように、彼らはあくまで顧客利便性を提供することで収益をあげている企業であり、アマゾンは今の事業形態がオンライン商取引であるだけで、あくまでもかりそめの姿なのである。アマゾンを語るとき、それが一番重要な視点だと私は考える。

 2016年も暮れる頃、米国シアトル中心部にまったく新しいタイプの店舗がオープンした(※1)。

No Lines. No Checkout.
(No, Seriously.)
行列なし。会計なし。
(本当です)

 店頭にこのようなスローガンが飾られたその店こそ、アマゾンが自社社員向けにパイロット的に開店した無人店舗Amazon Goであった。

アマゾンは「自社都合」で語る企業に容赦ないAmazon Goを紹介する動画映像
出典:“Introducing Amazon Go and the world’s most advanced shopping technology”(https://youtube.com/watch?v=NrmMk1Myrxc)

 アマゾンは、この無人店舗をオープンの4年前から構想し、コンピューターによる最先端の画像認識技術と、AIによるデータ分析を駆使することで会計をなくし、行列をなくす店舗のあり方を突き詰めたという。

 アマゾンが“Just Walk Out”と称して、来店客の手を煩わせることなく、ただ店に入り、歩いて出て行くだけ(Just Walk Out)で、買い物を終了させることができる店は話題を呼んだ。

 Amazon Goで買い物をするのに必要なのは、専用アプリをダウンロードして、ゲートのセンサーにスマートフォンをタップすることだ。それ以外は何も必要ない。買い物客は、自分が買いたいものを何でも手に取ってバッグに入れるだけだ。精算レジやそのための店員は存在しない。

 買い物客は入店時と同様のゲートを、立ち止まることも、ライトの点灯や信号音を待つこともなく通って出て行く。購入した商品は、スマートフォンのアプリを通じて記録され、それぞれのアカウントに請求される。

※1 一般客へのオープンは2018年1月2日と、最初の公開からはおよそ1年後となった。システムの技術的な問題で開店が延期になっていたという。