慶應三田会「最高幹部」評議員97人の老人支配、血脈優先の閉鎖サークルPhoto:hxdbzxy/gettyimages

慶應義塾には他の私学にはない特徴がある。慶應OBなどで構成される「評議員会」が最高意思決定機関であることだ。評議員にはビジネス界の大物が名を連ね、大学職員は少数派だ。だが近年、評議員会の機能不全が塾員内部からも指摘されるようになっている。特集『慶應三田会vs早稲田稲門会』(全16回)の#9では、慶應三田会「奥の院」の実態に迫った。(ダイヤモンド編集部副編集長 浅島亮子)

評議員会が慶應三田会のがん?
「奥の院」内部崩壊の危機

「連合三田会中国をつくれないだろうか」(中国に駐在する慶應OB)

 さかのぼること約2年前。北京三田会、上海三田会、広州三田会、蘇州三田会――。都市ごとにバラバラに点在している中国の地域三田会を「連合三田会中国」にぶら下げることで、一体運営しようとする提案が検討された。

 慶應OBの同窓会組織「三田会」の活動は国内にとどまらず、海外にまで広がっている。海外三田会は、駐在員や移住者が情報を共有したり、親睦を深めたりするコミュニティーとして機能しているのだ。

 例えば、中国最大のSNS「WeChat」に登録している北京三田会メンバーは優に200人を超える。上海三田会の会員数は500人弱で、平時ならば年末のクリスマス会には100人近くが集まる。中国の地域三田会が束になって「大中国三田会」を結成したならば、一大勢力となるはずだった。

 ところが、である。一部の発起人メンバーの帰任や新型コロナウイルスの感染拡大が重なり、この三田会の勢力拡大の話は立ち消えとなってしまった。それどころか、定例会と称する飲み会も回数が減り、メンバー間の関係が希薄になりつつあるという。

 コロナ禍で日本を含む海外渡航に移動制限がかかり、経済の先行きも不透明。そんな閉塞感が漂う有事にこそ、慶應の強固な人的ネットワークのパワーがいかんなく発揮されるのかと思いきや、実態はそうでもないらしい。

「有事や危機にこそ三田会の結束力が発揮されるというのは昔の話。三田会はもはや名実共に親睦会に成り下がってしまった」。冒頭の慶應OBはそう断言する。

 三田会としての活動といえば、昨秋に日本で開催されるはずだった大イベント「慶應連合三田会大会」が中止になったため、せめて絆を新たにするという名目で、慶應の応援歌「若き血」を有志で歌った動画を送ったくらいだそうだ。

 所変わって米西海岸。米国のある地域三田会に所属する慶應OBは、「慶應ブランドの神通力が通用したのは数年前までだ。国内では仲間内で群れるなど“寄らば大樹の陰”で仕事をできたかもしれないけれど、グローバルビジネスで三田会の存在が役に立つことはない」と言い切る。

 高齢者がポストを譲らない。仲間内だけで群れるインナーサークルを形成する。新しい世界へ踏み出すチャレンジをしにくい――。海外で孤軍奮闘しながら仕事をしていると、こうした三田会組織の内向き志向が、旧態依然とした日本の産業界の縮図のように映るのだそうだ。

 とりわけ、塾員が「慶應と三田会のがん」(別の慶應OB)として批判の矛先を向けるのが、「慶應義塾評議員会」の存在だ。

 評議員会は慶應義塾の最高意思決定機関だ。重大事案を決める際、例えば塾長の選任や、東京歯科大学など他大学との統合話を進める場合には、評議員会の承認が必要となる。評議員に選ばれることは慶應OBの最高のステータスである。

 批判を強めているのは一握りの塾員だけではない。他ならぬ評議員メンバーの一人は、「高齢の評議員メンバーが滞留しており、組織が機能不全に陥っている」と内実を打ち明ける。内部の構成員からも突き上げを食らうとは穏やかでない。

 一体、慶應の「奥の院」で何が起きているのか。