お客さまに商品を買ってもらったら、それで営業の仕事が終わりではありません。いま買ってくれたお客さまが、次のお客さまを呼び込んでくれることもあります。お客さまの輪をいかに広げることができるか。これも営業マンの腕しだいです。

 人は誰でも、うまくいったときは手柄話をしたがります。買い物も同じです。いいクルマを買ったときは「見てくれ、いいクルマだろ」と自慢せずにはいられません。「いい服着てるじゃない」と言われたら、「新宿の◯◯で買ったんだけど、素材に竹を使ってるんだよ」など、店や商品の自慢をしたくなります。

 ただし「安いものを買った」と言って自慢する人はいません。「いいもの」を買ったときに自慢したくなるのです。その意味でも、商品を売るときは、いかに安く売るかより、いかにお客さまの個性に合った商品、お客さまに喜ばれる商品を売るかが大切なのです。

 1人のお客さまがその商品や店、販売員を気に入れば、その話は必ず誰かに伝わります。直接話を聞くのはもちろん、友だちの友だちからのまた聞きで存在を知ることもあります。「ジャケットを探してるの? そういえばオレの友だちが、いいジャケットを買ったって言ってたよ。聞いてみる?」といった具合です。今は携帯電話で連絡がすぐにとれますから、「もしもし、あのジャケットだけど、どこで買ったんだっけ?」ということにもなるでしょう。

 こうした口コミは販売戦略として非常に重要です。私が販売を指導しているタカナシ乳業では、学校給食に使ってもらうことで、子どもたちによる口コミを大いに活用しています。学校でタカナシ乳業の乳製品を食べた子どもが「おいしかったから、もっと食べたい」と言えば、親はスーパーやコンビニで買ってきます。家にあれば、家族も食べます。こうしてタカナシ乳業の名前や商品を広めていったわけです。

 特に最近は、老若男女問わずメールでの情報交換が活発ですから、少し評判になれば、たちまち噂が広がります。「◯◯ショップの鈴木さんは、けっこうモノを知っているよ」という話を聞きつけ、「鈴木さん、いますか」と名指しで訪ねてくることも少なくありません。

 この場合、初めてのお客さまでも、どんな目的で来たのかがわかりますから、それだけ適切なアドバイスもできます。そうなれば、ますます評判が伝わり、ファンも増えます。ある意味、1人のお客さまを通じて、商品や店、販売員を“ブランド化”できるのです。

 私は1人のお客さまの後ろには、「10人のお客さま」がいると考えています。その10人のお客さまが、さらに10人のお客さまを呼んでくれれば、100人のお客さまができる。1人のお客さまには、それほど高い潜在能力が潜んでいるのです。