天下のキリンビールが「足元を見られた」とは言い過ぎか。

 10月22日、キリンホールディングス(HD)が協和発酵工業買収を発表した。

 キリンHDは約1700億円を投じて、年内に協和発酵株約28%を取得し、2008年10月には医薬品子会社のキリンファーマと協和発酵を株式交換によって合併させる計画だ。新会社「協和発酵キリン」の売上高は約4000億円、国内医薬メーカー5位の規模となる。

 驚くべきは、売上高1兆6665億円を誇るキリンHDが、その4分の1以下の規模でしかない協和発酵に対して見せた「配慮」。

 向こう10年間は協和発酵キリンへの出資比率を50.1%にとどめて経営の自主性を尊重し、事業売却や合併後の人員削減も実施しないというから、協和発酵にしてみれば願ったりかなったり。まさに破格の厚遇といえる。

 こうまでして協和発酵を傘下に収めたかった背景には、「2015年の売上高3兆円達成」を経営目標として掲げているキリンHDの苦しい事情がある。

 3兆円といえば、現在の売上高のほぼ2倍。すでに昨年にはワインメーカーのメルシャンを買収しているが、主力のビール市場は予想以上の縮小傾向にある。しかも、創業100周年を迎えた今年は、アサヒビールを抜いて悲願の首位奪回を期していたが、明らかに旗色は悪い。

 そんな環境下で、酒類、飲料と並ぶ“第三の柱”に据えている医薬事業のテコ入れは焦眉の急だった。製薬業界では研究開発費負担の増大により、世界的なM&Aの嵐が吹き荒れている。中途半端な企業規模では生き残れない。アサヒ、サントリーといったライバル会社も早々と医薬事業から手を引いた。思い切った買収に打って出るか、退くか――。二者択一を迫られた答えが、今回の協和発酵買収ということだ。