大統領の指針ともなる最高情報機関・米国国家会議(NIC)。CIA、国防総省、国土安全保障省――米国16の情報機関のデータを統括するNICトップ分析官が辞任後、初めて著した全米話題作『シフト 2035年、米国最高情報機関が予測する驚愕の未来』が11月20日に発売された。日本でも発売早々に増刷が決定、反響を呼んでいる。NIC在任中には明かせなかった政治・経済・軍事・テクノロジーなど、多岐に渡る分析のなかから本連載では、そのエッセンスを紹介する。

第9回では、かつての新興国が直面した「中所得国の罠」から日本・韓国、そして中国が抱える課題を分析する。

中国が陥る「中所得国の罠」

多くの国と同じように、中国でも人口の高齢化が始まっており、そのペースは2020年にかけて加速するだろう。現在、65歳以上が総人口に占める割合は8%だが、2030年には16%を超えるだろう。

日本・韓国が先進国になれた理由と中国が陥るジレンマ

これに対して生産年齢人口(15〜65歳)は72%のピークをすでに超えており、2030年には68%まで低下するだろう。15〜20歳の割合は現在30%程度だが、2030年には21%まで落ち込むだろう。もちろん生産年齢人口が減っているのは中国だけではない。日本、韓国、ドイツなどの先進国はもっとひどいことになるだろう。

中国政府はこの問題を認識している。しかし、一人っ子政策を完全に撤廃しても、長年続いた低出生率を大幅に引き上げられるか、専門家は疑問視している。中国では都市人口が増えているが、世界的に見ても、人口の都市化は出生率の低下と結びついている

中国は中所得国の罠に陥っている。多くの中南米諸国も1980年代に同じような状況に陥り、構造改革を怠ったのと、所得格差を放置したために、その罠に深くはまり込んだ。

中国の指導部は、高付加価値産業を育成することによって中所得国の罠を脱出する戦略だ。科学技術を推進し、ナノテクノロジーや幹細胞研究の分野を育成している。中国企業は新たなテクノロジーや管理手法を求めて、海外に進出し始めた。

中国の対外直接投資も増えている。こうした措置は現在の中国の開発レベルでは論理的なものであると同時に、高付加価値経済に移行するための、おそらく唯一の方法だろう。