内向化が止まらないアメリカ、南シナ海などで膨張し続ける中国、イギリスのEU離脱、IS(イスラム国)による相次ぐテロ……この動揺する世界を、日本はいかに乗り切るべきか? 混迷する米大統領選を世界の人々はどう見ているのか?
人気ジャーナリスト・櫻井よしこ氏の最新刊『凛たる国家へ 日本よ、決意せよ』の中から紹介していこう。

民主党支持でも「リベラル」を自称しないアメリカ人

ハワイ大学の級友たちとの対話

民主党支持でも「リベラル」を自称しないアメリカ人櫻井よしこ(さくらい・よしこ)ベトナム生まれ。ハワイ州立大学歴史学部卒業。「クリスチャン・サイエンス・モニター」紙東京支局員、アジア新聞財団「DEPTH NEWS」記者、同東京支局長、日本テレビ・ニュースキャスターを経て、現在はフリー・ジャーナリスト。
1995年に『エイズ犯罪 血友病患者の悲劇』(中公文庫)で第26回大宅壮一ノンフィクション賞、1998年には『日本の危機』(新潮文庫)などで第46回菊池寛賞を受賞。2007年「国家基本問題研究所」を設立し理事長に就任。2011年、日本再生へ向けた精力的な言論活動が高く評価され、第26回正論大賞受賞。2011年、民間憲法臨調代表に就任。
著書に『論戦』シリーズ(ダイヤモンド社)、『「民意」の嘘』(花田紀凱氏との共著、産経新聞出版)、 『日本の未来』(新潮社)など多数。

ハワイ大学で私が共に学んだ留学生仲間たちの幾人かは、いまアメリカに住んでいる。さまざまな州に住み、仕事も多岐にわたる。共通点はアメリカ国籍を取得し、家族をつくり、アメリカを愛し、誇りを持って生きていることだ。級友たちは、どちらかと言えば民主党支持者のほうが共和党支持者よりも多い。

つまり、どちらかと言えばリベラル派が多い。

私がそう指摘すると面白い反応が戻ってきた。日本では「リベラル」という言葉はよい意味で使われているかもしれないけれど、アメリカでは全く違うというのだ。「リベラルという表現は、むしろ、愚かな人という意味合いさえ含み始めた。だから皆、いま、自分はリベラルだと言うより、プログレッシブ(進歩的)だと言っている」と友人は語る。

彼らが「いまなぜこの5人なのか」と問うていたのは、大統領選挙を目指して指名獲得を争う共和党の3人と民主党の2人のことだった。ヒラリー・クリントン氏に投票すると明言したハワイ在住で同じ寮に住んでいた日系女性は、今回はどんな人にとっても「究極の次悪(lesser evil)の選択」だと断言していた。

「ヒラリーは頭脳明晰なのに正しい判断のできない女性。これまでのキャリアから見て、彼女が大統領を目指すことは自他共に認めてきたはずなのに、平均すると1講演で20万ドル(1ドル110円換算で約2200万円)もの講演料を受け取るなんて、判断能力を疑ってしまう」

ラスベガス在住のイタリア人の級友はドナルド・トランプ氏を酷評した。

「彼はメキシコ国境に高い壁を築くと言うけれど、メキシコ人は壁なんて乗り越えない。壁の下に穴を掘ってそこから潜り込むのよ。1200万人を超える不法移民を全員追い返すとも言うけど、そうしたらラスベガスのレストランはすべて閉店でしょうね。だって働く人がいなくなるもの」

香港出身で旅行業で身を立てる級友は、共和党のジョン・ケーシック氏とテッド・クルーズ氏を酷評した。

「ケーシックは自分の業績の自慢話ばかりだ。政治家が国民のために働くのは当然なのに、聞いてて不愉快だ。クルーズはトランプとの比較においてのみ、ましに見えるけれど、トランプなしのクルーズって、少し怖いよ」

ラスベガスの級友が付け加えた。

「サンダースの教育費無償の公約は、財政的にも、また議会での共和党と民主党の力関係を考えても、実現性はないでしょう。21世紀の自由の国のアメリカに社会主義的発想を持ち込むことには、絶対、反対よ」