野水勉(のみず・つとむ) 開成中学校・高等学校校長
1954年福岡県生まれ。開成中学校・高等学校、東京大学工学部、同工学系研究科工業化学専攻修士課程を修了。79年動力炉・核燃料開発事業団研究員、84年名古屋大学工学部の助手となり、89年金属工学専攻で工学博士号を取得。90~91年にハーバード大学医学部客員研究員。92年名古屋大学工学研究科材料機能工学専攻の講師、96年に同大学留学生センター・短期留学部門教授に就任。同大学国際学術コンソーシアム推進室長、総長補佐(国際交流・留学生交流担当)、国際交流推進本部・国際企画室長、国際教育交流センター・教育交流部門・部門長から副センター長を歴任。2020年3月名古屋大学を定年退職し、同年4月より現職。
開成生の英語力の伸びに驚く
50年ぶりの母校で驚いたことの一つに、野水勉校長は英語教育を挙げていた。実は、名古屋大学で四半世紀近く、留学生への対応に当たるなど、野水校長は教育の国際化に関して豊富な経験がある。柳沢幸雄前校長からバトンを渡された背景には、イギリスの名門パブリックスクールにも伍していける国際的な学校という新たなビジョンが潜んでいるのかもしれない。
――開成からも、年々海外の大学に直接進学される方が増えておられるようですね。
野水 年間10人ほどが日本の大学ではなくて、英米その他の海外の大学を目指しています。やはりその大学に魅力があってこそ、世界のトップレベルの大学なわけです。
こうしたトップレベルの大学から要求される英語能力は極めて高いものです。TOEFL iBT(R)(Test of English as a Foreign Language Internet-Based Test)でいえば120点満点で100点以上、IELTS(International English Language Testing System)だったら0.5刻みの9.0満点で7.5という、海外経験のない生徒が中学・高校で一生懸命英語を勉強してもなかなか到達できないレベルです。
ところが開成に来て驚いたのは、TOEFL iBT(R)で100点に到達している生徒が、学年によって20名から30名程度いるようなのです。
――私も一度見たことがあるのですが、中学でサマースクールに行く開成の生徒さんが何人か自由自在に話していらっしゃる。これは相当レベルが高いなと思って。
野水 英語科目担当の先生に聞きましたら、やはり海外に行くという目標を持っている生徒たちは海外経験がなくても、開成の生徒だと到達するということなのです。
――彼らは中学受験までほとんど英語を勉強していず、入学してからやるのですよね。たいしたものですね。
野水 中学1年生(中1)から英語を母語とする(ネイティブの)先生による英会話のクラスが設けられています。ネイティブでない英語の先生方も、英語で授業を行える方々ばかりです。
また、中3や高1を中心に3週間から1カ月近く海外のサマースクールに参加できるように、教務上の制度を整えています。毎年50人くらいが出かけて行って、さらに刺激を受けているようです。
高校では、高1~高3を対象に、通常授業の放課後7・8限に毎日2コマずつネイティブの先生による英語特別講座があります。
英語によるエッセイ(小論文)を書く練習をしたり、英語による講義とディスカッションのクラスを設けていただいたり、あるいは留学のアドバイスをしていただくものです。これは選択制で、おおむね1クラス15~20名が毎回出ているということですが、海外大学進学や留学を見据えたエッセイや英作文の指導・添削では5名程度の少人数対応の講座もあります。海外留学を目指している生徒はそれをかなり受講しているようです。
エッセイを自分でしっかり書く力がないと海外の大学では評価してもらえません。高いレベルでの英語教育もいまでは後押しできている。そのような教育が開成で行われていると、私自身は全く想像していなかったので、来てみてびっくりしました(笑)。
――たしか5~6年くらい前からですね。私も同時並行で見ていた感じで、非常に見事な変化をされた。それだけ保護者のグローバル志向が強まっているのでしょうか。
野水 一つには、高校から入ってくる生徒100人のうち、10~15%が3年以上海外にいた帰国生になっています。開成には海外帰国生を対象とした受験制度はないので、一般入試で入ってきてくれます。そういう意味で、高校入試はとても貴重な多様化を拡げる仕組みになっています。帰国生だけではなく、海外在住を1年以上経験した生徒まで数えると、いまでは30%近くになります。
――そういう意味でも、これからもいろいろ変わられるのでしょうね。