
真壁昭夫
コロナショックの発生をきっかけに、EC(電子商取引)などを手掛ける大手ITプラットフォーマーの重要性が高まっている。それに伴い、経済のデジタル化を支える半導体や5G通信機器関連の企業の収益は顕著に増加している。その一方で、これまで経済の中心的存在だった大手自動車メーカーの業績は厳しい。そうした状況を見ても、世界経済の中で大きな構造変化が起きていることが分かる。

8月28日、安倍晋三首相が持病の悪化を理由に辞任を表明した。9月14日に自民党は投開票を行い、新しい総裁を選出する予定だ。米中の対立が先鋭化する中、わが国の政策運営の重要性は一段と高まっている。これまで、トランプ大統領の懐に飛び込んで、米国と良好な関係を維持してきた安倍首相が退陣するとなると、米中との関係をいかに運営するか、次期政権は長期の視点に立った政策を運営することが求められる。

米国や欧州諸国との関係悪化もあり、国際社会で中国の孤立感が高まっている。その背景には、新疆ウイグル自治区での人権問題や、香港の国家安全維持法の施行、新型コロナウイルスの感染などをめぐって、中国と米国や欧州諸国、さらにはオーストラリアなどとの関係がややこじれていることがある。

最近、米トランプ政権の対中国の強硬姿勢が一段と鮮明化している。その背景には、11月の大統領選挙に向けて、中国に対する強硬策によって点数稼ぎをしたいトランプ氏の思惑などがある。当面、トランプ政権は対中圧力をさらに強まることが予想される。

ここへ来て、日増しに米中の対立が先鋭化している。米国の厳しい対中政策に引っ張られる格好で、日英豪などが中国に対する懸念を表明した。米国の圧力に対して中国は報復措置などで応酬し、世界の2大国のパワーのぶつかり合いが鮮明化している。

8月4日、元徴用工訴訟で韓国の裁判所が出した、日本製鉄の資産差し押さえ命令の効力が発生した。それによって、日韓関係は新たな局面を迎える可能性がある。今後、韓国が差し押さえた、わが国企業の資産を処分することが現実になると、わが国としてはそれに対する厳然とした対応を行わなければならないからだ。

韓国経済が一段と厳しい環境を迎えている。4~6月期の国内総生産(GDP)の実質成長率(速報値)は前期比3.3%減だった。韓国経済のGDP成長率は2四半期続けてマイナスに陥った。成長率の落ち込み幅は1998年の“アジア通貨危機”以来22年ぶりだ。

米国は英・豪・加を自陣に引き入れ、対中包囲網を強化している。独仏を中心にEUも中国と距離を取り始めた。米国は経済面で中国を重視してきた韓国に“踏み絵”を踏ませ、対中包囲網をより強化したいだろう。韓国はそうした変化に対応することが難しいようだ。

つい最近まで、わが国をはじめとする主要国では、自動車産業が経済全体を支える大黒柱だった。多くの自動車メーカーは必死に消費者が求める車の製造に取り組んできた。それが、研究開発、各種製造業、雇用、消費など、主要国の経済を広範囲に支えた。

ここへ来て、韓国・文在寅(ムン・ジェイン)大統領の支持率低下が鮮明だ。5月上旬、新型コロナウイルスへの感染対策などが評価され、一時、文大統領の支持率は60%を超えた。しかし、それ以降、北朝鮮側の強硬姿勢などもあり支持率は低下している。文大統領への支持率は6週続けて低下し50%を下回った。

元徴用工への賠償問題をめぐって日韓政府の対立が続いている。6月上旬、韓国の大邱(テグ)地裁の浦項(ポハン)支部は、わが国の新日鉄住金(以下、日本製鉄)に資産差し押さえの通知書類が届いたとみなす公示送達の手続きを行った。

6月22日、韓国の康京和(カン・ギョンファ)外相は、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の事務局長宛に書簡を送付した。その中で韓国政府は、長崎県にある軍艦島をはじめとする世界文化遺産(明治日本の産業革命遺産)の登録取り消しの検討を求めた。世界遺産への登録は国際社会の決定だ。自国の事情だけで、その取り消しを求める韓国は国際社会のルールを軽視しているとしか思えない。

6月16日、北朝鮮が開城(ケソン)にある南北共同連絡事務所を爆破した。それからうかがえるのは、北朝鮮のいら立ちの大きさだ。北朝鮮側は、韓国の文大在寅統領の宥和(ゆうわ)の呼びかけを一切無視している。というよりも、北朝鮮は文大統領を侮蔑する態度を鮮明にしており、同大統領を全く相手にする意思はないと宣言しているようだ。

足元で、コロナウイルスの感染拡大は一つのヤマを越えたようだが、世界経済の本格的な回復にはまだ時間が掛かりそうだ。世界の貿易量は依然として低水準にあり、貿易依存度の高い国へのマイナスの影響はかなり大きい。韓国の経済状況も厳しい状況が続いている。

5月25日、米ミネソタ州ミネアポリスにてアフリカ系米国人の男性が白人警察官に暴行され、亡くなった。その状況を撮影した動画が拡散し、米国各地で人種差別に反対するデモが起き、一部では暴動にまで発展している。トランプ大統領はデモ参加者を“悪党”と批判し、「略奪が始まれば銃撃も始まる」と力づくで抑え込む姿勢を示している。

コロナショックによる経済の低迷や、米・中の対立の激化などにより世界の貿易取引が減少している。貿易量の減少は世界経済全体にとって大きなマイナス要因だ。輸出依存度の高い諸国、特に韓国経済にとってかなりの逆風だ。

コロナショックを境に、国際社会における米国と中国の対立がし烈化している。WHOをはじめ国際機関において中国が発言力を強めているのに対し、米国のトランプ大統領は脱退をも辞さない強い姿勢を示している。

4月、韓国では、一旦、新型コロナウイルスの感染拡大が一服したかに見えた。総選挙に勝利し左派政権の基盤強化を達成できた文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、「自らの感染対策は世界標準であり、同国が世界をリードする」と強調した。それに伴い韓国政府は経済活動を再開したが、5月に入りソウルのクラブで集団感染が発生した。国民の間でも、新型コロナウイルス感染拡大の「第2波」への懸念が高まっている。

アフターコロナに「IT後進国」日本の国際競争力が失墜する理由
最近、今年1~3月期の主要企業の業績が発表され、コロナ禍の渦中での各国の主要企業の収益状況が明らかになりつつある。その中で、わが国と欧州の主要企業の業績が前年同期比で7割から8割減と大きく落ち込む一方、5Gや通信分野に強みを持つ米国や中国では企業の純利益が前年同期比で4割程度減少と健闘していることが注目される。

新型コロナウイルスの感染拡大によって、現在、世界経済は第2次世界大戦後に経験したことがない重大な変化に直面している。その動きは早く、しかも振れ幅が大きいため、対応するのが難しい状況になっている。
