
嶌峰義清
コロナ禍では財政政策が景気の速やかな回復につながり、金融政策がリスクマネーを回復させ、割高な水準にまで株価を押し上げた。足もとで、日経平均株価の割高感は否めない。新型コロナ変異種への懸念はあるものの、今後経済活動が正常化すれば、米FRBのテーパリングをはじめとする金融政策の正常化も現実的となる。ベテランのシンクタンク・エコノミストが、現時点で考えられる材料を点検するとともに、2021年度の株式相場の見通しを語る。

首都圏の新型コロナの感染者数が再び拡大している。しかし政府は、緊急事態宣言の再発令について慎重な姿勢を崩していない。今後もしばらくの間、我々の生活や経済活動は、新型コロナの感染リスクを抱えながらとなる公算が大きい。すでに労働者は在宅勤務などで新しい生活を経験した。今後の消費行動は、新しい世界に基づいたものに変化する。企業や個人に求められる対応を考えてみよう。

新型コロナウイルスの感染拡大から半年が過ぎようとしている。2020年前半の世界経済は急失速し、大恐慌時以来ともいわれる不況に陥った。我々はまだ、新型コロナウイルスの完全な封じ込めには成功していない。しかし、経済活動の再開に踏み切った国の多くは、再び厳しい行動制限を講じないだろう。経済の痛みがあまりにも大きいからだ。コロナと共生するウィズコロナの様子を考察するとともに、今年後半の世界経済の姿を浮き彫りにする。

日本の新型コロナウイルス感染者数は、一部の大都市圏を除き、緊急事態宣言が解除されるほどに減少している。今後は経済活動の再開によって景気がどの程度、持ち直していくかに関心が集まる。世界で最も早く新型コロナウイルスの感染が拡大し、最も早く収束した中国では、活動の再開を反映した経済指標が確認されている。3月、4月を中心に中国の経済指標の動向を整理し、経済活動が再開された後の日本景気の先行きを占う。

金融市場は2月からリスクオフの流れが強まったが、代表的なリスク資産である株価は3月下旬には底を打ち、下値不安は薄らいでいる。背景には、各国の積極的な金融緩和、財政出動による景気対策、ロックダウン措置による感染拡大の抑制などがある。欧米の感染動向の今後の展開が、市場を見通す上で重要なポイントとなる。一方、外出制限措置が遅れ、強制力のない自粛が続く日本の先行きは不透明感が強い。今後の日本景気や株価動向を、ロックダウン効果が現れるタイミングなどから考察する。

新型コロナウイルスの感染ルートが不明な感染者が、国内で増加傾向を強めている。これを受けて、政府は新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐための対策方針を発表した。国内でのヒトヒト感染の拡大を防ぐことは、すでに失敗に終わったといえる。感染拡大により、日本経済は昨年10~12月期に続き今年1~3月期もマイナス成長となる可能性が出てきた。日本の景気後退はすでに現実味を帯びているのだろうか。

2020年の世界経済は持ち直し、世界的な低金利政策も続きそうだ。米中関係など、国際情勢は引き続き市場を不安定化させるリスクはあるが、トランプ米大統領が11月の米大統領選挙に向けて経済と市場の安定を図ることを優先課題とするならば、ネガティブな圧力は2019年よりも少なくなるだろう。また物価の安定傾向が続くなかで、金融政策の転換も遅れる可能性がある。こうした状況のなか、リスク性資産価格の先行きを考えてみた。

米国ではクリスマス商戦が始まる。米国では雇用所得環境、消費者マインドが良好で、米個人消費に死角はないように思える。しかし、雇用の拡大ペースが鈍っているなど、消費の先行きを懸念する見方もある。また米中貿易摩擦が、今後の米消費者マインドを下押しする可能性も否定できない。クリスマス商戦が好結果になったとしても、市場は好意的な見方をするだろうか。

10月のFOMCで、米FRBは3会合連続での利下げを決めた。ただしFOMCの声明文では、連続的な利下げは一旦休止し、しばらくは様子見姿勢を続ける方針が示唆された。一方、FRBのパウエル議長は、利上げ再開にはインフレ率が持続的かつ顕著に上昇している、という条件をつけた。仮に景気が再加速に転じたとしても、かなりの期間、利上げが再開されることはないだろう。こうしたFRBの考え方に対し、市場はどのように反応するのだろうか。利下げと利上げの2つの観点から考えてみよう。

世界的な製造業の減速が一段と鮮明になる一方で、非製造業は堅調に推移している。日本では、非製造業を支えている個人消費の回復基調が、10月からの消費増税で頓挫する可能性が高い。個人消費は大幅に下ぶれるリスクが極めて高いが、反動減にとどまるのか、消費低迷を長期化させるかは不明。後者となるリスクを想定した政策対応、特に財政政策を市場は期待している。

7月末のFOMCやトランプ米大統領が対中関税引き上げ第4弾を発表したことからドル円は1ドル=105円台まで円高ドル安が進んでいる。市場ではFRBのハト派寄りの姿勢が弱いとの見方があるが、市場の緩和期待が行き過ぎただけであって、FRBはハト派姿勢のままである。ただ、ドル円相場は、米国で3回の追加利下げを織り込んだ水準にある。国際情勢の不穏な報道が流れるたびに市場が動揺し、為替市場では円高に振れる展開が今後も出てくるかもしれないが、1ドル=105円を超える円高は一時的なものにとどまると予想される。

米国では利下げ期待が高まっているが、政策金利は中立金利を下回っており、景気減速圧力を回避できれば利下げの必要性はないと考えることもできる。世界的な景気減速は、在庫調整、中国景気の減速、米中貿易戦争などによるところもあるが、米中貿易戦争が短期に収束するとは期待しにくい。中東情勢、英国のEU離脱(ブレグジット)などもあり、中央銀行は先行き不透明感が高い国際情勢を睨みながら、金融政策を運営せざるを得ない。

足元の成長率は潜在成長率を上回っているものの、日本経済の実態は悪化している。趨勢的にみて、日本経済は減速感を強めており、今後も内需・外需ともに短期間での回復が期待しにくい。日本経済が再びデフレに回帰し、長期低迷に繋がるリスクもあり、為替相場や株価が再び歴史的な転換点を迎える可能性すらある。

先頃発表された中国の経済指標は、落ち込みに歯止めがかからなかった中国経済が、ようやく底入れしつつあることを示した。輸出が低迷するなかで生産活動が持ち直すパターンは、リーマンショック以来のこと。しかし、当時とは状況が少し違うようだ。

米国ではFRBが年内にも利下げを行うとの期待が根強く残っている。その背景には、景気減速懸念、物価の安定感、FRBの姿勢に対する市場の見方の変化などがある。FRBが実際に利下げを迫られる可能性は高いのだろうか。分析してみよう。
