2010年も2ケタの高度成長が続く中国。 電力供給制限のような付け焼き刃ではなく、抜本t期な地球環境政策が不可欠だ
AFP=時事

 中国各地でディーゼル燃料不足が深刻化している。江蘇省や浙江省などの華東地域、広東省などの華南地域では、ディーゼル車用の軽油を確保できず、営業停止に追い込まれるガソリンスタンドが続出している模様だ。その結果、トラック輸送が停滞し物流にも影響が出ており、ネット通販会社のなかには遅配が頻発しているところもある。

 ディーゼル燃料不足の最大の原因は、地方政府による電力供給制限にある。電力の供給を一方的に制限された企業が、工場を安定稼働させるために、ディーゼル燃料による自家発電に切り替えた結果、需給が逼迫しているのである。なぜ地方政府は電力供給制限を行っているのか。

 中国は、第11次5ヵ年計画(2006~10年)で、GDP単位当たりのエネルギー消費量を05年比で20%削減するという目標を掲げており、今年が最終年に当たる。ところが、1~6月の上半期終了時点で削減率は15.52%にとどまり、達成に赤信号が灯っていた。08年のリーマンショック後の景気刺激策で大規模なインフラ整備を進めた結果、エネルギー消費量が想定以上に増加していたのだ。

 目標未達を危惧した中央政府が今年5月に「通達」を出して目標を死守するよう地方政府にプレッシャーをかけると、地方政府は緊急の電力供給制限に走る。8月には江蘇省の常州で、「開9停5」(9日間連続操業、5日間連続休業)という一方的な通達が出され、コマツやデンソーなど多くの日系企業も影響を受けた。

 10月に入っていったん正常化したものの、11月中旬時点で、浙江省、河北省、河南省、山東省、山西省、内モンゴル自治区などで電力の供給制限が行われている。これから年末にかけては、目標必達のために締め付けが厳しくなり、企業の自家発電急増によるディーゼル燃料不足がさらに深刻化するのは確実だ。

 ここで一つの疑問に突き当たる。電力供給を止めても、企業が自家発電に走れば、結局はエネルギー消費を削減することにはならないのではないか──。

 答えは否である。自家発電は統計の対象ではないためエネルギー消費としてカウントされない。完全な「抜け穴」なのだ。自家発電の発電効率の悪さを考えると、政府の電力供給制限は、逆にエネルギー効率を悪化させている可能性すらある。本末転倒だ。

 抜け穴だらけの有名無実化したエネルギー消費削減目標が、地方政府を無意味な電力供給制限に走らせ、ディーゼル燃料不足を引き起こし、企業活動と市民生活に打撃を与えている。中国が今後、名実共に世界の大国となっていくためには、「量」だけでなく「質」を重視した政策への転換が不可欠だろう。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 前田 剛)

週刊ダイヤモンド