しかし、ふいに目に飛びこんできたニーチェの言葉は、私が望んでいた直球のメッセージそのものであった。倫理の授業でも、難しい横文字ばかりではなく、励ましてくれるような言葉を紹介してくれたらいいのに。そうすれば、私はもっと倫理の授業や授業に出てくる歴史上の偉い人たちを好きになるのに。

 私はクラスメイトたちの背中が見渡せる、窓際の後ろの席から黒板を眺め、せわしなく桜を散らす春の風を感じながらそんなことばかり考えていた。
『祝福できないならば呪うことを学べ』。ストレートすぎる気もするけれども、あっけらかんとしていて、なんだか自分の失恋が小さなことのようにも思えてくる、不思議な言葉だ。

 私は、ニーチェのその言葉を心の中で何度か唱えているうちに、あることを思いついた。

 そうだ、前々から気になっていたあの場所へ行ってみるのもいいかもしれない。そうすれば、先輩への未練も綺麗さっぱり断ち切れるかもしれない。

 好奇心は一旦芽生え始めると、急速に膨らんでいく。ふとした思いつきも好奇心によって、すぐに決意へと姿を変える。終鈴のチャイムが鳴る頃には、私は思いついたばかりの放課後の予定のことで頭がいっぱいだった。

 放課後に、少し楽しみな予定があると、終鈴が待ち遠しくなるものだ。窓の外は春。別れと出会いが織り混ざったこの季節は、人に何かを期待させる。