株主総会を総選挙、取締役会を国会とたとえれば
有権者である株主の役割がますます重要に
朝倉 とはいえ、今後も事業の現場で手腕を発揮した人の中から取締役が選ばれるというパターンが完全に不要になることはないと思いますが、ガバナンスを機能させるためにはどんな選抜法がいいのでしょうか。
冨山 まず、社外取締役を増やすとともに、執行役兼務の取締役を減らすべきでしょうね。それから、取締役に就く人に会社法をきちんと教えることですね。「会社の代表として、全ステークホルダー(株主や従業員、顧客といったその会社の利害関係者)のために利益の最大化を果たしてください」と、本来の役割をしっかり認識してもらうことが不可欠です。
日本の会社の仕組みをわかりやすく説明すると、実は議院内閣制と同じ構図になっています。株主総会は実は国会ではなくて、1年に1回の総選挙なんですよ。その場で全ステークホルダーの代表として取締役が選ばれます。つまり、世界的に総会で最も重要なイベントは取締役の選出です。そして、議会で多数派となった党が政権を握るように、取締役の過半数から賛同された人が社長となります。だから、企業を国に例えると取締役会は閣議だと思われがちですが、本当は国会に該当します。そして、閣議に該当するのは社長主催の経営会議です。
朝倉 なるほど。すると、総会が総選挙としてきちんと機能するためにも株主の役割が重要となってきますね。しかし、会社の成長を応援しようとする株主と、単に利殖だけを求める株主に二分されているのもまた事実。だからこそ、スチュワードシップコード(責任ある機関投資家の原則)が定められたわけですが。短期的な売買や利殖を追求する投資活動も市場を機能させるうえで重要ですが、会社の事業をきちんと理解したうえで、もう少しロングタームで応援するこういう投資家がもっと増えるべきではないかとも思います。
冨山 今、先進国で最大の株主は年金基金で、多くの機関投資家はその運用を託されています。日本の場合で年金加入期間が20~65歳であるとおり、年金基金は約50年間にも及ぶ超長期スパンでのパフォーマンスが問われています。実は、ここが非常に重要なポイントで、株式市場ではデイトレーダーなどの短期的な動きが目につきやすいですが、現実には根雪のように存在している長期的な投資資金が占めるウエートのほうが高いのです。
そうすると、理想的な“解”は、スチュワードシップコードを踏まえて機関投資家が50年のタームできちんと運用結果を出すこととなります。50年と言えば、ある意味では会社の寿命よりも長い。ところが、こうしたことを意外と日本人はわかっておらず、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の株式運用が単年でマイナスなったことに目くじらを立てている。マスコミを含めて、あまりにもリテラシーが低すぎます。むしろ、今まで株式の組み入れ比率があまりにも低すぎたことのほうが大問題なのです。
朝倉 今後、機関投資家や経営者の在るべき姿勢についてはどのようにお考えですか。
冨山 今まで多くの株主総会は、議院内閣制における国会と同じだと誤解されたまま、「1日だけ株主から文句を言われるのを辛抱すればいい」というスタンスで開催されてきました。総会屋が跋扈したのも、そういった後ろ向きの姿勢だったからです。しかし、“議院内閣制”が機能し始めると、有権者である株主が「総選挙」を通じて影響を与えられるようになるはず。
すると次に問われるのは、株主が民主主義を担うだけのリテラシーを持っているかどうかです。そして、有権者の中でも現実的に大きな力を示すのは機関投資家ですから、彼らにプロとしてしっかりしてほしい。ガバナンス強化の具体策として要求するのが、増配と自社株の買取償却の一点張りでは困ります。
一方で、経営者もその立場になった瞬間から、プロフェッショナルであるべき。少なくとも、「C」がつく肩書きや取締役になった時点でサラリーマンの立場ではなくなるわけです。プロフェッショナルであれば、筋を通してクビになったとしても、次の仕事がすぐに見つかるはずです。
朝倉 日本はいまだに「プロ経営者」と特別視される状況ですが、本来は経営層みながプロであるべきですよね。経営をとりまく課題と解決策についていろいろ伺えて楽しかったです。ありがとうございました。
冨山 こちらこそ。ますます頑張って下さい。