コスト競争力のある小型車を日本で生産できるのか──。自動車産業の国内空洞化が叫ばれるなかで危機の象徴となったのが、7月に日産自動車が国内で発売した小型車「マーチ」だった。同車はコスト優位性の高いタイで生産され、日本向けに輸出されている。
小型車は単価が低く利幅が薄いため、とりわけコスト低減が肝要だ。人件費を含む固定費や部品コストが高い日本は、新興国と比べて生産の優位性を欠き、逆輸入は理にかなっていた。
ところが、他社に先駆けて主力車種の逆輸入に踏み切った日産が、今度は“真逆”のプロジェクト、小型車の国内生産における低コスト化の限界に挑もうとしている。
舞台は九州だ。今秋、ミニバンの新型「セレナ」の生産を神奈川から移管し、小型車生産を九州へ順次シフトする戦略を打ち出した。と同時に、来秋をメドに九州工場を分社化する検討に入った。子会社化することで賃金を地域に見合った水準に抑える狙いだ。加えて、地の利を生かして近隣のアジア諸国から低価格の部品を調達する方針も打ち出した。
新興国は工場誘致のための優遇税制を導入したり、完成車輸入に高額な関税を課すケースが多い。需要拡大が進む新興国開拓を推進するなかで単純に商売の利を考えれば、新興国へ投資して生産能力を強め、日本での生産をドラスティックに縮小する妥当性を否定できない。
とはいえ「一度諦めてしまえば日本の小型車の生産はすべて海外で行われてしまうかもしれない」と日産の志賀俊之COO。九州での挑戦は小型車の国内生産に意義を見出す最後の砦となる。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 臼井真粧美)