無意識を鍛えることがひらめきにつながる

 ところで、『ゼロイチ』には、茂木さんの『ひらめき脳』の一節を引用させていただいています。無意識の領域では、自分にとって予想がつかないことがしばしば起こる。無意識の思考がスパークしたときに、ひらめきが訪れるのだと思います。『走り方で脳が変わる!』には、あえて何も考えずに走ることで「デフォルト・モード・ネットワーク」という回路が働いて、ひらめきやすくなるということを書かれていましたね。

茂木健一郎×林要 特別対談(下)<br />何も考えずにランニングすれば、<br />「脳」が冴えわたる!茂木健一郎(もぎ・けんいちろう)
1962年、東京都に生まれる。脳科学者、理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学の研究員を経て現在はソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。「クオリア」=感覚の持つ質感をキーワードに「脳と心の関係」を研究している。2005年に小林秀雄賞、2009年に桑原武夫学芸賞を受賞。著書に『走り方で脳が変わる』(講談社)、『脳とクオリア』(日経サイエンス)、『心を生み出す脳のシステム』(NHK出版)、『ひらめき脳』(新潮新書)ほか。2015年刊では『結果を出せる人になる!「すぐやる脳」のつくり方』(学研)、『頭は「本の読み方」で磨かれる』(三笠書房)などがある

茂木 そうなんです。すごくおもしろいですよ。ぼーっと走っていると、無意識の領域から「あれはこうなってたのか!」「あ、あのメール返さなきゃ」「あの人に連絡をとろう」……と、ぽこぽこアジェンダが上がってくるんです。

 私は無意識を鍛えるということにすごく関心があって、無意識へのインプットは2つの方向があると考えています。ひとつは意識からのインプット。これは本を読んだりネットを見たりして情報を得るという、通常のインプットですね。もう一つは、体験からのインプット。これは体を動かすなど五感を活用することでインプットされるものです。今日の取材場所である明治神宮は、そういう意味でテーマパークだと思うんですよ。無意識を刺激するように設計されていて、歩くだけで楽しかったり心地よかったりする。

茂木 僕も明治神宮は大好きですね。月に1回は来ています。木々のざわめきや砂利の感触、澄んだ空気など、たしかに無意識を刺激される要素が多いところですね。

 この話は、今GROOVE Xで作っているロボットにも関係しているんです。私は、コミュニケーションは意識のレイヤーと無意識のレイヤーがあると考えていて、無意識のレイヤーに特化したロボットを作ろうとしています。つまり、ロボットと言語的なコミュニケーションをするのではなく、もっと感覚的なコミュニケーションを追求したい。現状の人工知能では、意識をつくりだすことはできませんからね。

茂木 ふむ。たしかに、人工知能で人間の脳の代替するという考え方が喧伝されていますが、僕は、ロボット、AIの技術開発において、人間の脳はあまり意識しなくてもいいんじゃないかと思っているんです。ディープラーニングは人間の脳神経回路を真似したニューラルネットワークを何層にも重ねたもので、パターン学習と強化学習はたしかに脳の学習則と同じだけれど、脳の働きが包括的に再現できているわけではない。基本的には無関係として考えたほうが、本質的なイノベーションを起こせると考えています。AIの用途としてよく自動運転があがりますが、あれも人間の運転と同じである必要はまったくない。むしろ、人間に寄せると事故が起こりやすいでしょう。

 そう思います。将来的には、人間の運転が禁止されて、自動運転に統一されるのではないでしょうか。

茂木 そうですよね。人間の運転と自動運転が混在している状態が、一番事故が起こりやすいと考えられます。