他業界の常識をマネると「業界の非常識」になる

 たとえば、あなたが飲食店の社長だとします。
 雨の日、飲食店はどうしても売上が落ちます。客足が落ちて従業員が暇を持て余しているとき、社長のあなたは、どのような指示を出しますか?

 次の「3つ」から選んでください。

1.「客足は減っているけど、全員、閉店時間まで気を緩めないように」
2.「客足が減ってきたので、アルバイトはもう帰っていいよ。閉店時間までいなくていいから」
3.「客足が減ってきたので、アルバイトはもう帰っていいよ。早く帰っても、閉店時間までいたことにしてその分のバイト代は払うから、安心していいよ」

 私なら、「3」を選びます。
 仮に、「7時間で7000円」(時給1000円)もらっていたアルバイトが、1時間早く上がったにもかかわらず「6時間で7000円」もらえたら、どう思いますか?

「うれしい」と思うでしょう。そして、アルバイトの定着率もよくなる。
 私は、1000円余分に払ってでも、「従業員が楽しく働いてくれるほうがいい」と思います。

「仕事もせず、早上がりをしているのに、アルバイト代を余分に払うのはおかしい」と思われるかもしれませんが、そう思うのは常識にとらわれているからです。

 会社に変化を起こすには、今までの考え方や常識を捨てて、非常識を積み上げていくことです。

「今と同じ考え方」「今と同じやり方」「今と同じ人」を捨てて、「新しいこと」を取り入れなければ、会社を変えることはできません。

 そう言うと、多くの人が「今まで、誰もやっていないこと」をやろうとしますが、それは間違いです。

「新しいこと」は、「今まで、誰もやっていないこと」の意味ではなくて、

「他の人は成果を出しているけれど、自分はまだやっていないこと」
「他業界の常識で、自分の業界ではまだ常識になっていないこと」
「すでにあるものの組合せを変えること」

 です。
 新しいことをするなら、「業界の非常識」をたくさん積み上げましょう。

 では、「業界の非常識」とは何か?
 非常識と言っても、常識を欠いたことをするのではありません。

「他業界の常識や、他業界でうまくいっていることを、自分の業界で最初に実行すること」です。
 サービス業なら、製造業で常識となっていることを自社に転用する。
 製造業なら、エンターテイメント業界で成果の出ている取り組みを取り入れる。
 ライバル企業と同じことをしていては、差は縮まりません。
 同業種の場合、どうしても既成の枠組から抜け出すことができない。
 だとすれば、「他の業界」の成功事例を取り入れるのが正解です。

 賀川正宣会長は、携帯電話販売、飲食、自動車販売、人材教育などさまざまな事業を束ねる株式会社NSKKホールディングス(兵庫県)の代表です。

 賀川会長は、「エマジェネティックス(EG)」と呼ばれるプロファイルを導入して、組織力と接客サービスの向上に取り組んでいます。エマジェネティックスとは、脳科学の理論と50万人以上の統計をもとにして、人間の個性を分析するプログラムです。

「自分自身の強みと可能性の理解」「生産性の高いチームビルディング」「個人の資質の向上」などに役立つため、結果的に残業削減が期待できます。

「社内に全員のプロファイルを貼り出して、お互いのプロファイルを意識しながらコミュニケーションを取れるようにしています。人事にも積極的に活用していて、新卒の採用や新規事業の立ち上げのときにもプロファイルを駆使しています」(賀川会長)

 ラーメン店や携帯電話販売の仕事に、脳科学や統計学を駆使したプログラムを導入した賀川会長も、業界の非常識を取り入れて成功した経営者のひとりです。

小山昇(Noboru Koyama)
株式会社武蔵野代表取締役社長。1948年山梨県生まれ。日本で初めて「日本経営品質賞」を2回受賞(2000年度、2010年度)。2004年からスタートした、3日で108万円の現場研修(=1日36万円の「かばん持ち」)が年々話題となり、現在、70人・1年待ちの人気プログラムとなっている。『1日36万円のかばん持ち』 『【決定版】朝一番の掃除で、あなたの会社が儲かる!』 『朝30分の掃除から儲かる会社に変わる』 『強い会社の教科書』 (以上、ダイヤモンド社)などベスト&ロングセラー多数。
【ホームページ】http://www.m-keiei.jp/