金融緩和したほうが、財政赤字は減る
ただ、プロの投資家たちと普段議論している私からすれば、やはり国債暴落論はあまりにもナイーブであり説得力に乏しい。真っ当な経済予測をせずに、「起こる可能性がきわめて低い危機シナリオ」ばかりをエコノミストらが強調するのは、そのほうがメディア受けがよく、露出を確保できるからに過ぎない。
メディアでは、「中央銀行が金融緩和によって国債購入を拡大すると、それが財政規律を損ない、財政赤字を拡大させ、金利上昇をもたらす」といった通説がまかり通っている。しかしこれは、金融緩和の本質を見ていない議論だ。
金融緩和によって経済を成長させ、税収を増やすほうが、財政収支は改善するつまり、歳出を減らすのではなく、歳入を増やす発想が必要なのだ。先進各国では、金融緩和を徹底することで財政赤字を減らしてきたという実証データもある。
上図を見ればわかるとおり、日本の財政収支は、名目GDPで規定される税収と連動している。つまり、日本で1990年代から財政赤字が拡大した主たる要因は、日銀によるデフレ放置という失政にあるのだ。
ところで、「金融緩和に効果はない。インフレ率を高めることなどできない」といつも主張している論者たちが、他方では「金融緩和を続けていると、ある日突然、極度のインフレが起こる」と煽り立てるのは、ひどく矛盾しているように思えないだろうか?
これは「そんなことをいくらやっても、この岩石を動かすことはできない。ただ、もしも転がり出せば誰にも止められない」という奇妙なロジックであり、金融岩石理論どと呼ばれている。
日本のデフレ放置の根幹には、この金融岩石理論が一種のドグマとして横たわっている。これを検証した書籍『アベノミクスは進化する―金融岩石理論を問う』(中央経済社)のなかで、私は「金融緩和が財政赤字拡大をもたらす」という主張に対する徹底的な批判を行っているので、そちらも参照されたい。