「上昇要因あり」の不動産、注意点は?

では、もう不動産価格の押し上げ要因がないのかというと、そんなことはない。2017年からはじまった円安・株高によって経済成長率が高まり、同時に低い金利水準が維持されれば、当然ながら不動産市況は持ち直すろう。

また、小池百合子東京都知事の就任後、設備やインフラへの投資に対する見直しが進んでいるものの、2020年東京オリンピックに向けて、首都圏の不動産関連投資需要は増え続けるはずだ。さらに、安倍政権が2016年から拡張的な財政政策に転じたため、公共投資が再び増えることにもなる。そのなかで、2011年の東日本大震災以降続いている、建設業での人手不足・資材不足の問題はますます鮮明になっていく。ヒトや材料の不足は建築コストの上昇を招き、当然、不動産価格を押し上げる要因になると予想される。

ただし、不動産市況は全国一律に動くわけではない。ブーム的に活況を呈するのはまずは首都圏の商業地であり、それが波及するとしても、大阪・名古屋などの地方都市の中心部までだ。今後、ある程度の住宅価格の上昇があったとしても、1980年代後半のバブル期のような状況は訪れないだろう。「これからは価格上昇が起こって住宅が安く買えなくなる」などのセールストークを真に受けて、持ち家やマンションを買い急ぐ必要はない私は考えている。

投資用物件についても同様だ。投資目的で取引されているワンルームマンションなどの多くは、すでに「サラリーマン大家さんブーム」で相当に価格が上昇している。収益の源泉となる家賃と比較しても、かなり割高な価格水準で取引されているケースがほとんどであり、セールスマンに騙されてうっかり高い物件をつかまされないよう注意したほうがいいだろう。

村上尚己(むらかみ・なおき)
アライアンス・バーンスタイン株式会社 マーケット・ストラテジスト。1971年生まれ、仙台市で育つ。1994年、東京大学経済学部を卒業後、第一生命保険に入社。その後、日本経済研究センターに出向し、エコノミストとしてのキャリアを歩みはじめる。第一生命経済研究所、BNPパリバ証券を経て、2003年よりゴールドマン・サックス証券シニア・エコノミスト。2008年よりマネックス証券チーフ・エコノミストとして活躍したのち、2014年より現職。独自の計量モデルを駆使した経済予測分析に基づき、投資家の視点で財政金融政策・金融市場の分析を行っている。
著書に『日本人はなぜ貧乏になったか?』(KADOKAWA)、『「円安大転換」後の日本経済』(光文社新書)などがあるほか、共著に『アベノミクスは進化する―金融岩石理論を問う』(中央経済社)がある。