相続人は、役所や金融機関に何度も足を運ばなければなりません。また、遺産分割協議を目的にした他の相続人との打ち合わせのために多くの時間を取られます。
会社勤めをしている人は有給休暇を取ったり、休日をそのために費やしたりする必要があります。このため、遺産分割協議が長引くと、かなりの肉体的・精神的負担を負うことになります。また、移動のための宿泊交通費や連絡・調整のための通信費もばかになりません。一方、弁護士などの専門家にこうした作業を依頼すれば、自分の作業は減りますが、それなりの費用負担が発生します。
家族でも亡くなった親の口座から
お金を下ろせないことがある
親が遺言書を遺すことの第三のメリットは、親の死後に遺族が親の口座から預金を下ろせるようにできることです。
地方では、一般の人でも亡くなると翌日の地元の新聞の訃報欄、いわゆるお悔やみ情報に掲載されます。地方の銀行は、地元紙の訃報欄を毎日丹念にチェックしています。また、外回りの行員が葬儀の情報を得たり、口コミで死亡情報を得たりしています。このため亡くなった翌日には、その人の口座は「支払い停止」になる可能性が大きいのです。
口座が支払い停止になると、「預貯金を(親族の)○○に相続させる」という遺言書がなければ、相続人の間での遺産分割協議がまとまらない限り、たとえ家族でも亡くなった親の口座からは1円もお金を下ろせなくなります。すると、その間の生活費が不足し、残された家族が日々の生活に困ることになります。
ただし、一部の銀行では、葬式代は下ろせる場合もあります。また、銀行によっては遺産分割協議書がなくても相続人全員の印鑑、戸籍謄本、印鑑証明書があれば支払いに応じてくれるところもあります。
以上の3つのメリットにより、残された家族や親族、大切な人に、相続などの死後の作業で大変な思いをさせないために、遺言書は不可欠なのです。