老人ホームの情報収集を始めたら、次に重要なことは、親が「遺言書(いごんしょ、ゆいごんしょ)」の重要性を認識することです。その理由は、親が遺言書を遺すことで、親の死後の相続トラブルをある程度予防できるからです。

「親が遺言書の重要性を認識すること」という表現は、まどろっこしく聞こえると思います。このまどろっこしい表現の理由は、次のとおりです。

 遺言は、民法で規定される法律行為のうちの「単独行為」(単独の意思表示を要素とする行為)です。つまり、遺言書を作成するのが親の場合、あくまで「親単独」で行なう法律行為なのです。このため、子供が親に遺言書作成を働きかけたり、強制したりすることによって、親が遺言書を作成するというのは遺言書の趣旨に合わないのです。

 その一方で、遺言書がないために親の死後に相続トラブルが発生した場合、迷惑するのは残された子供などの相続人です。しかし、繰り返しになりますが、親の遺言書は、親単独の意思表示であり、子供の意思を反映させる趣旨のものではないのです。

 したがって、これらを踏まえると、親が遺言書の重要性を認識し、「自らの意思で」死後の相続トラブルが起こりにくい内容の遺言書を遺すことが望まれます。

 相続については、まず遺言書が優先します。遺言は、その人が死ぬと同時に、身分上、あるいは財産上の事柄について、法的効力を発生させようとする意思表示だからです。