数十人が入れ替わり立ち代わり、インターネット上でコミュニュケーションを交わし、各自が持てる役割を自ら見つけ出して貢献していく。移行作業の裏側では、投稿された情報に精度の低いものが紛れ込んでいないかの検出や、画像として寄せられた最新の地図情報をデータ化する試みが続けられた。

JAXAから提供された衛星画像がデータ化されて、ウェブサイトに取り込まれた。
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 昼夜を問わず行われた作業を支えたのは、インターネット電話「スカイプ(Skype)」だった。メンバー同士での打ち合わせはもっぱらスカイプ上のチャットで行われ、プロジェクトでなされるやりとりが一晩で1000行を越えている日々が続いた。

 進化は止まらない。18日にはグーグルの地図サービスからsinsai.infoの情報が参照可能に。そして、22日には内閣官房震災ボランティア連携室と連携する「助けあいジャパン」、また28日のYahoo! Japanの被災地エリアガイドへ、それぞれ情報提供を行うことでアクセス数はさらに増加していった。一方21日にはスマートフォン以外の携帯への対応も完了し、29日までに有志のユーザーがアンドロイド型携帯用の専用アプリが開発される。

 母体となる団体がようやく決まったのは、震災から2週間が経ったときだった。プロジェクトの副責任者を務める三浦広志は「走りながら、つじつまを併せていったんです」と語ってくれた。

続々と集まる
「スーパーエンジニア」たち

 「未踏」、そう呼ばれるプログラムを聞いたことがあるだろうか? IPA(情報処理推進機構)が主催する、「スーパークリエイター」を産み出そうとする事業のキーワードだ。ソフトウェアエンジニアであれば誰もが憧れる日本有数のチャンスであり、「伝説のエンジニア」が選抜された若手を練磨するプログラムだ。

 この未踏プロジェクトに参画した人材が、2人も「sinsai.info」プロジェクトに参画する。そもそも「未踏」目指す人材が同じ道を歩むという事例は極めて少ない。そして、ほかのメンツも負けてはいない。プロジェクトの総責任者の関はジオメディア(地理情報系メディア)の専門家であり、未踏プロジェクトのOBでもある。また、地図データの編集を担う古橋大地はGIS(地理情報システム)のプロフェッショナル。さらには、日本発として注目されるプログラミング言語「Ruby」のコミッター(開発プロジェクトの最終責任を負う)として活躍するメンバーが2名も参加しているし、チーム最年少は皆から「天才」と評される中学3年生だという。

 気づけば、どれだけお金をかけても集められない「ドリームチーム」が結成されていた。