驚異的な初動の早さはなぜ実現できたのか?
――「オープン」というキーワードに秘められた可能性 

「もし、ハイチやニュージランドと同じ状況が日本で起きたらどうするのか?」

 ハイチやニュージランドの支援プロジェクトに参画した日本人であれば、こう思うのは自然な感覚かもしれない。日本が世界でもっとも地震の多い国であることは、日本人が一番知っている。

 彼らがUshahidiを実験的に運営していたからこそ、今回の大震災での奇跡的な初動の早さ――発生からわずか4時間後――が生まれた。

 やがて多くのエンジニアが、「オープンソースのソフトウェアを災害のために使う」という発想に魅了されていった。そもそもオープンソースのムーブメントは、「クローズド」なソフトウェアに対抗するために始まった運動であった。そして誰かの利害にとらわれずに、自由に情報やソフトウェアを使い、関わる人々のすべての力を使って、問題を解決していくという発想にこそ、特徴がある。

「クラウド型技術」が大震災に呼応する【前編】<br />――災害情報を瞬時に共有する「sinsai.info」の力「sinsai.info」プロジェクトのサブリーダーを務める三浦広志。本業でもオープンソースのエバンジェリストとして活躍する。

 このプロジェクトの副責任者を務める三浦広志は、sinsai.infoの動きを「草の根の力」だと強調する。まるでオープンソースのムーブメントの代弁者のようだ、そう僕は感じた。

 各地に散らばったエンジニアたち――日本だけではなく、海外も含む――が協力しあい、インターネット上の情報を集約し、地図上で可視化するプラットフォームを築いた。それが、1万以上の投稿の集約を可能にし、累計数十万人のユーザーを惹きつけ、結果として精度の高い救援活動を可能にしたのだ。

 仮にすべての費用を大手企業がまかない、自社でいちから開発するとすれば、その金額や期間は莫大なものになるだろう。少なくとも億単位の費用と優れた開発者をそろえる必要があり、かつ運営に必要な人材を雇わなければならない。有志のエンジニアやボランティアが奇跡的にそろったからこそ、このプロジェクトの成功はあったのだ。

 もし、このプラットフォームがさらに進化を遂げる――たとえば、すべての携帯電話に標準機能としてインストールされる――とすれば、災害情報の集約のあり方は劇的に変わるだろう。もし、生存しているすべての被災者がどこにいてどういう状況にあるのか、どのような救援が必要なのか的確に伝えることができたとすれば、どれだけの人々が救われるのだろうか。

 危機の中で生まれたこの技術は、将来起こるかもしれない危機を乗り越えるための方向を指し示しているのだ。

 

 このsinsai.infoが見せた動きは我々にどのような可能性を示唆するのだろうか。実はこのムーブメントは、「災害情報の集約」にとどまるものではない。我々の情報の受容のあり方や発信の仕方、そして、集約そのもののあり方が変わりつつあると言っていいだろう。

 次回は、「sinsai.info」や「Ushahidi」といった災害情報を集約するサイトが果たした役割を俯瞰しながら、ソーシャルメディアの動向、「ジオメディア」と呼ばれる地理情報との融合、「キュレーション」という流れを紹介していこう。はたして、情報は誰かのものなのだろうか? そして、復興していく中で情報技術は何をもたらすのだろうか。