第一原発は大震災後の大津波によって、電源のほとんどすべてを奪われた。これが冷却システムが働かなくなった根本原因だが、もう一つ重要なことは、原発に関するデータを記録・チェックする計器類がすべて作動しなくなったことである。これが現在に至るまで1号機から4号機の損傷状況が必ずしもつまびらかにされていない最大の理由ではないか。計器類が正常に作動せず、汚染水が大量に貯まっていて原発本体に近づけないような状況では、事態の把握に相当程度手間取るであろうことは容易に想像される。

 もちろん、政府・東電に判断のためらいや意思決定の遅れがなかったと言うつもりはまったくないが、レベル5からレベル7への引き上げが遅れたことについては、基礎データ等の不足が主因であって、情報を隠蔽したり、わざと開示を遅らせたりする格別の意図はなかったように思われる。

 米ソの核実験が行われていた頃、わが国でも核実験による放射性物質の飛来は確実に検証出来た。同様に、第一原発から大気中や海中に放出された放射性物質は国際機関や近隣諸国が容易に検証可能である。仮に隠蔽したとしても、後日嘘は必ずばれる。その結果、わが国の国際的な信用は間違いなく失墜する。わが国の政府は、そのようなリスクを冒すだろうか。

 ましてや原子力については格別のノウハウを持つアメリカと共同で事に当たっている最中でもある。アメリカが隠蔽に気づかぬはずもあるまい。一言で言えば、政府・東電には、事故情報を隠蔽するインセンティブが見当たらないのだ。政府・東電の発表が市民に疑心暗鬼を生じさせるのは不徳という他ないが、多少の不手際はあるにせよ、私たちは少なくとも第一原発事故に関しては、政府・東電の発表を信じて行動すべきだと考える。

 先日、あるメディアの友人から次のような話を聞いた。「原発事故が大変だと書けば書くほど良く売れるが、大丈夫だと書くと誰も読んでくれない」と(その意味からすれば、このコラムも読まれないかも知れない)。確かに私たちの気持ちの中にはまちがいなく「恐いもの見たさ」のような感覚があり、反対に「大丈夫だ」と言われれば逆に不安になってしまうような天の邪鬼な心理構造もある。

 だからと言って、尻馬に乗って不安を煽っても何一つ得る所はない。何か非日常的な事件が起こった時にこそ人間の真贋が現われると喝破した賢人もいたではないか。

 私たち市民は政府・東電をまず信頼する、だからこそ、政府・東電は引き続き第一原発の状況についてより正確でより分かりやすい(タテ・ヨコに比較した)情報の継続開示に最大限の努力を傾けてほしい、と強く願うものである。 

原発54基の応急手当てが欠かせない

 第一原発事故に関しては放射性物質の発生源である1号機から4号機までを1日も早く沈静化させる(冷やし、かつ閉じ込める)ことが最優先の課題であり、その次は第一原発の状況について、英文を含めて正しい情報開示・情報発信を続けていくことがポイントであることは言を俟たない。加えて、現在わが国が保有している原発54基(うち稼働中は22基)のチェック・手当ても早急に行わなければならない。