あの東日本大震災から6年が経とうとしている。数年前から被災地で、不思議な体験をしたという話をネットなどで見聞きしたことはないだろうか

 あの日から、もうすぐ6年の月日が経とうとしているが、今だに震災について語るべき言葉を持っていない。身の回りで大きな被害があったわけでもない。知人や親戚が被災地にいたわけでもない。ボランティア活動に参加したこともない。

『魂でもいいから、そばにいて――3.11後の霊体験を聞く』
奥野 修司
新潮社
256ページ
1400円(税別)

 だから自分が何を語ろうとしても、言葉が軽くなってしまう。そんなためらいを感じている方は、案外多いのかもしれない。しかし本書『魂でもいいから、そばにいて――3.11後の霊体験を聞く』は、意外な切り口からそのような壁を取り払ってくれ、最も大切な姿勢が何かを教えてくれた。

 数年前から被災地で、まことしやかに囁かれてきた不思議な体験の数々。多くの人にとってかけがえのないものでありながら、「誰も信じてくれないから」と胸に秘められてきたのは、大切な「亡き人との再会」ともいえる体験談であった。偶然の一言では片付けられない話ばかりが、次々と飛び出してくる。

 中でも圧倒的に多いのは、亡くなった家族が夢に現れるという現象である。夢とは思えないほどリアリティに溢れ、当人と言葉を交わすようなケースも多い。その次に多いのが、「お知らせ」というものだ。亡くなった時間に、お別れの挨拶に来たという証言する人は少なくない。また、携帯電話を通しての不思議な現象も散見された。

 このような霊的体験は、阪神・淡路大震災の時にはほとんど見られなかったという。オガミサマと呼ばれるイタコのような風習が古くから生活の一部になっていたように、東北には土着の宗教心が今も潜在意識の中でしっかり流れている。それが霊を見たり、感じさせたりということにつながっていくのだろうか。