家族だけで抱え込まず、支援を求める

私は、弟さんの脅しのような言葉は、不安の裏返しだと感じました。

どこの家庭でも家族間の問題は根深いものですが、Dさんのように、そもそも本人が「自分だけ幸せになるのは罪だ」と思いつめていることが多いのです。

しかし、結婚しても、お父さんを見捨てることにはなりません。彼女が今まで1人でしてきたことを、行政や支援団体にお願いする時期が来たのです。

持ち家で家賃の心配がなく、父親の年金があるため、生活が成り立っていますが、このまま彼女がすべてを引き受けていては、独身のまま、弟さんの人生まで背負っていくことになりかねません。

私は、家族だけで抱え込まず、介護に関しては地域包括支援センターに、弟さんのことは市区町村の福祉課に相談してみるようにすすめました。
弟さんの自立がなければ、彼女は家を出られないと思ったからです。

Dさんはとても迷っていましたが、思い切って相談に行くと、ひきこもりの人たちを支援する団体を紹介されました。
スタッフが訪問してくれ、同世代で話しやすかったせいか、弟さんも渋々ながら顔を出し、世間話程度はできるようになったのです。

今までは自分がいるからと控えめにしていた介護サービスも、父親がデイサービスに行く日を増やしました。
食事や入浴が済ませられますし、父親がひきこもりの弟さんと1日中、顔をつきあわせる状況も避けられます。

姉が真剣なことがわかったのでしょう。それまで家事すらノータッチだった弟さんも、買い物に行ったり、食事の支度や洗濯などを少しずつやり始めました。

半年後には支援団体の橋渡しにより、コンビニでのアルバイトを開始。
社会復帰の道筋が見えてきました。仕事も意外に楽しいようで、職場に溶け込んでいます。

しばらくしてDさんは恋人と一緒に暮らし始めました。
実家に近いマンションで、通勤前や帰宅後にも立ち寄りやすいロケーションです。

家を出る日、Dさんが「私、彼と結婚するからね。何かあったら、すぐ駆けつけるから」と伝えると、弟さんも笑顔でうなずいてくれました。
Dさんは結婚に対して、ようやく前向きに考えられるようになったのです。