シングルマザーの母との葛藤

(C)清水貴子
橋中今日子(はしなか・きょうこ)
理学療法士。リハビリの専門家として病院に勤務するかたわら、認知症の祖母、重度身体障害の母、知的障害の弟、の家族3人を21年間にわたって1人で介護する。仕事と介護の両立に悩み、介護疲れをきっかけに心理学やコーチングを学ぶ。自身の介護体験と理学療法士としての経験、心理学やコーチングの学びを生かして、介護と仕事の両立で悩む人、介護することに不安を感じている人に「がんばらない介護」を伝える活動を全国の市区町村で展開中。企業では、介護離職防止の研修も担当。ブログ「介護に疲れた時に、心が軽くなるヒント」では、「介護をしていることで、自分の人生をあきらめないで!」「あらかじめ対策を知っておくことで、問題は回避できます!」といった介護疲れを解消し、心がラクになる情報を発信中。NHK、TBSほか、テレビやラジオでも活躍中。

【落合】私はシングルマザーの子どもでした。今から70年も前の地方都市で。横文字にすると軽いけれど、現実はそんなものではなくて。橋中さんと共通する状況かもしれない。周囲からのプレッシャーや私を守るために母は壊れていって、神経症になり、自分の部屋から一歩も出られなくなっていく。母にとって、外の世界はすべて自分に対して×をつきつけてくる存在だったんでしょう。
【橋中】お母様、おつらかったでしょうね。

【落合】いろいろな本を読んでわかったのだけど、母はいわゆる不潔恐怖症。1日中、手を洗っていた。バイ菌=外側の価値観を洗い流したいという思いがあったのかもしれません。指紋が見えなくなるほどでした。
【橋中】そうだったんですか。

【落合】私の友人に、日本で初めてフェミニストセラピーに取り組んだ人たちがいて、年代的に女性問題にもかかわっているんですね。カウンセリングをやっている方とお話しすると、母親との関係がうまくいかなかったという人が多い。自分の痛みと1回向き合った人、痛みにひきずられず、扉を開けようとしている人が、介護のプロにももっといていいはずですね。
【橋中】経験者だから、お役に立てることがあると思うんです。

【落合】ですから、橋中さんにお目にかかれてよかった。母の神経症は、私が小学生のころから始まっています。当時、周囲にいる誰かが理解してくれていたら、母もあんなに重い荷物を背負わなくて済んだかもしれない、と少し無念です。
【橋中】私も今になって、母のつらさや哀しみが理解できます。

【落合】私は「元気な子」と言われていたけど、今、思えば、シングルマザーの子どもだからこそ、元気であるべきと自分に課していたのかもしれない。母との関係が、私がものを書く仕事に入っていくきっかけだったと思います。
【橋中】家族の問題はずっと続いていきますからね。

【落合】橋中さんは、介護が必要なお祖母様や弟さんもいらっしゃるから、これからも大変だと思います。でも、こういう人が私たちの側にいてくれる。介護について、人が人をサポートすることの、ある種の限界を知ったうえで、プロとしてお仕事をなさっている。それ自体、とても貴重なことだと思うんです。闇を抱えた人にとって、灯りをともしてくれる方だろうと。
【橋中】ありがとうございます。

【落合】橋中さんがご自身を生きること、それ自体が誰かの役に立つことでもある。ただご自分のための時間をつくらないと、疲れちゃうと心配になるのですが。このあいだお会いした弟さん、とても解放的で、また、お目にかかれるのを楽しみにしています。