実際、知り合いの不動産業者から聞いた話では、震災の日からゴールデンウィークまではまったく売れなかった不動産が、ゴールデンウィークが開けると、何事もなかったかのように元の水準まで回復したといいます。

日本人に脈々と受け継がれる
「なかったこと」にする姿勢

 私は、ゴールデンウィーク期間中に現実逃避することをお勧めしました。

 過剰になった熱を冷まし、こころを落ち着かせ、これから先のことを冷静に考えるためには、そういうことも必要です。原発や日本のこれからについては、短い期間で考えられるものではありません。

 ゴールデンウィークが開けると、こんどは熱が冷め過ぎ、震災などまるで「なかったかのよう」に振る舞い、考えることすらやめてしまった人が増えているようです。以前、振れ幅が激し過ぎるのが日本人の欠点だと言いましたが、それが顕著に表れているようです。

 日本人は、これまでも「なかったこと」にする態度をとり続けてきました。

 小泉自民党を熱狂的に支えた人が、そんなことなどなかったかのように鳩山民主党政権を誕生させ、それさえもなかったかのように民主党批判を展開しています。投票した自分にも責任があり、叱咤しながらも支え続けるという考えは微塵もありません。

 さかのぼれば、明治維新のときの構造も同じです。それまでまげを結んでいた人が、急激に西洋化を受け容れていく。太平洋戦争後も、鬼畜米英と叫んでいた人たちが、あっと言う間にアメリカ一辺倒になっていく。そういう意味で言えば、「なかったこと」にすることによって、日本人は時代に適応してきたのかもしれません。

 一方、ヨーロッパの人は歴史を水に流さないと言われています。

 ナチスの問題や、過去に起こった戦争、裁判などといった話題が、人々の会話に頻繁に登場します。何百年前の出来事が原因で、いまだに確執を続けるのがヨーロッパの民族性です。彼らにとってそれはいまもリアルな問題で、多くの人が「なかったこと」にできない考え続けるべき問題なのです。