東日本大震災で被災した多くの中小企業が、厳しい状況に置かれている。阪神大震災発生時にも地域経済を支える中小企業、特に長田区から須磨区にかけて集積していたケミカルシューズ産業は甚大な被害を受け、再建を果たせなかった企業も少なくない。阪神大震災と今回の震災の被害の単純な比較は難しいとはいえ、過去の経験から、これから東北地方の中小企業再建には具体的にどのような支援が必要と考えられるだろうか。兵庫県や神戸市の復興支援計画づくりに関わった兵庫県立大学加藤恵正教授に話を聞く。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン 林恭子)

「時間との戦い」に直面する被災企業
阪神とは異なる多様な被災状況への対応を

――東日本大震災で多くの事業者が被災した。震災から約3ヵ月が経過した今、どのような苦難に直面していると考えられるか。

かとう・よしまさ/兵庫県立大学教授 政策科学研究所所長。神戸商科大学(現兵庫県立大学)大学院経済学研究科修了。専門は都市政策。

 まず、「時間との戦い」の状態にあることがいえるだろう。今回は、津波被害で全てを失った企業や事業者がいる一方で、機械が動かない、あるいは従業員が出社できないことによって事業が一時的に停止しているケースもある。阪神大震災当時もそうだったが、そのような企業は、被災直後は頑張っているものの時間が経つにつれてダメージが大きくなり、やる気を失ってしまう。一度失われた経済活動を元に戻すのは極めて困難だ。

 また、阪神大震災直後は失業問題がそれほど深刻ではなかったが、被害を受けた方たちへ5、6年後にアンケートを取ると、3分の1の世帯が失業を経験していたことがわかっている。震災直後は仕事があったものの、その後に企業の倒産や経営難によって職を失っているのだ。このことからも、今後、東北地方でもより深刻度は増す可能性がある。今回、第一次補正予算が成立したのは震災から約2ヵ月後で、阪神の約1ヵ月と比較しても遅く、課題は多い。しかし、後に起こるかもしれない深刻な状況を食い止めるためにも、今、頑張れる企業を支援することが大切だ。

 もう1つは、「被災の状況が多様」である点に注意しなければならない。我々が経験した、都市型のまとまった形で被災した神戸と大きく異なり、今回は地域や地区によって被害の状況が様々だ。被災の状況も、工場をすべて失った企業がある一方で、仕事はできるが取引関係が断絶した状況、または機械が動かない状態など、それぞれだろう。その点を考慮して、被災した方がそれぞれに選択できる支援の枠組みやメニューを用意すべきだろう。