認知行動療法としてのマインドフルネス
もともとマインドフルネスは、心理的なストレスの解消法として考案されました。その際に重要な役目を果たしたのが、マサチューセッツ大学メディカルスクール教授のジョン・カバット=ジンです。
従来の認知行動療法に瞑想を組み合わせたマインドフルネス・ストレス低減法(MBSR: Mindfulness-based Stress Reduction)という独自の方法を構築した彼は、「マインドフルネスの父」とも呼ばれています。
ちなみに認知行動療法とは、認知(考え方)を変えさせることで心の不調を改善する手法です。当初は主に行動を修正する治療法(第1世代)としてはじまり、その後、認知のクセを修正する方法へと洗練されていきました(第2世代)。
カバット=ジンのMBSRは、さらにそこにマインドフルネスを組み合わせているため、第3世代の認知行動療法に位置づけられてもいます。先ほどのブリージングスペースの第1ステップにもあったように、マインドフルネス認知療法でも、自分の考え方のクセ(これを認知の歪みといいます)を言葉にしたり、紙に書き出したりして、客観視するところからはじめます。
実際、マインドフルネスが持つ認知療法的な効果には目を見張るものがあります。オックスフォード大学のチームが行った画期的研究をご紹介しましょう*01。論文が掲載されたのは、世界で最も有名な医学ジャーナルである「ランセット」という雑誌です。
長年にわたって投薬治療を受けている重度のうつ病患者さんたちを、無作為に2つのグループに分け、一方にはこれまでどおり投薬治療を継続しつつ、もう一方はクスリの処方をやめて、週2時間のマインドフルネスに切り替えました。これを8週間継続したのち、2年間にわたって各グループのうつ病再発率を追跡調査したところ、なんと両グループの再発率には明確な差がありませんでした。
これは驚くべき結果です。重度のうつ病患者に対する投薬をいきなりやめるのは、一定のリスクがある行為です。それにもかかわらず、マインドフルネスが投薬と同等の再発抑制効果を示したとすれば、こんなにすばらしいことはありません。
再発率が同じなのであれば、もはや副作用のあるクスリに頼る理由はなくなってくるでしょう。