「住宅ローン破産」と「住宅価値」の関係
住宅を購入するにあたって最も悩ましい問題は、住宅ローンの返済不能に陥るリスクがあることです。
報道番組などで住宅ローンの返済不能に陥った家庭の状況を目の当たりにすると、住宅を購入することはリスクであるという言い分も理解できます。
アメリカにおける住宅ローンというものは、一般的に「ノン・リコース・ローン」といわれ、ローンの支払いができなくなった場合には住宅自体は担保として銀行に取り上げられますが、残りの借金については、その後は支払わなくてよい形式になっています。いわば、返済不能に陥った際のリスクはお金を貸す銀行側が負っています。それゆえ、ローンの金利も市場の金利よりもやや高め(2016年12月末現在、米連邦住宅貸付抵当公社の30年固定金利で平均4.32%)に設定されています。
しかし、日本の住宅ローンはアメリカのような形式とは対照的です。住宅を取られたうえに、残ったローンの残債についても返済をし続けなければならず、返済不能のリスクはほぼお金を借りる側が負っているのです。
さらに、アメリカの中古住宅においては年数の経過と住宅の価値とはあまり関係がなく、立地性が良ければ多少古くても充分価値が保てます。すなわち、アメリカの住宅は、住んだ後も買った価格とほぼ同じ価格で住宅が売れるということです。地域(エリア)によって、また修繕などで家の手入れにお金をかけたことにより、年数が経つほど価値が上がる場合さえあるといいます。
他方、日本の住宅は、バブル崩壊後は、時を経るごとに価値が下がることが一般的です。そして「新築」が最も価値が高く、新しい方が古いものよりも価値があるとされます。 結局、高いお金を出して住宅を購入したとしても、毎年その価値が下がるため、ローンの支払いが滞った場合に住宅を売却しても損が埋めきれずに、自己破産を選ばなければならないことが多いのです。
なぜ日本では時を経るごとに住宅の価値が下がるのでしょうか。これは、日本人特有の新しもの好きや神経質さから来ていると私は感じています。「新モノ」「初モノ」に価値を見出す価値観とでもいうのでしょうか。不動産の評価制度によって新築と中古で評価の手法が分けられているのではなく、あくまで日本人の価値観によって、「新築」と「中古」の価値に顕著な差異が生じているのだと思います。
結局のところ、住宅ローン破産に陥らないためには、毎月返済可能な額を借りるということも大切ですが、途中で売却したときに、住宅ローンの残債よりも、その値段が上回るような、「価値が下がりにくい」物件を選ぶことが大切なのです。
松本智治(まつもと・ともはる)
不動産鑑定評価システム代表、不動産鑑定士。神奈川県横浜市出身。大学卒業後、不動産鑑定事務所、不動産仲介業、戸建て分譲デベロッパーを経て独立、投資用不動産調査や事業用不動産コンサル業務などを行う。
住宅仲介会社では契約取引業務、戸建て分譲デベロッパーでは用地の仕入れから販売まで1000戸以上に関わる。不動産鑑定評価関連では、外資系金融機関(ゴールドマン・サックス、ドイツ銀行等)からの不動産デゥーデリジェンス(詳細調査業務)なども含めて幅広く関わり、これまでの不動産価格に関する鑑定及び査定実績は大小含め1000件以上。オフィスや店舗賃料に関する「適正賃料マーケット・レポート」の作成にも携わり800件以上の査定実績を有する。仲介から戸建て建築、宅地造成、ビル建築再開発、賃貸不動産経営、そしてエリア調査まで、不動産に関わる現場を広く経験しているのが強み。
一般の住宅購入検討者に対し、購入すべきか賃貸とするか、購入するときの物件選別ポイントなどの住まい購入に関する相談などを受け、偏らないアドバイスが好評を得ている。