一流の経営者やリーダーは何をやっているのか? 人気コンサルタント小宮一慶氏の最新刊『経営者の教科書』(ダイヤモンド社)は、その20年以上の経験から成功する経営者・リーダーになるための極意をまとめた本です。本連載では、同書の中から抜粋して、成功するリーダーになるための考え方と行動について、くわしく解説していきます。

 

 経営者は「正しい」信念を持つことが大切です。「正しい信念を持つ」――この言葉の中には、キーワードが二つあります。それは「正しい」と「信念」です。

 世の中には正しくない信念だってあります。

「この会社は、俺のベンツを維持するためにある」「社長一族が繁栄するためにこの会社は存在する」というのも信念です。

 でも、正しい信念ではありません。それでは人はついてきません。

 そうした意味で、経営者にとって「正しい信念」を身に付けられるかは、とても重要なことなのです。

勇気やエネルギーの源泉は「信念」

 経営者やリーダーが従業員や部下に厳しいことを言うには、勇気がいります。

 では、その勇気はどこから出てくるのでしょうか?

 私は、勇気は「信念」から生まれると考えています。つまり、この会社を良くして、お客さまに喜んでいただいて、働いてくれている人にも幸せになってもらおうという信念があれば、おのずと厳しいことも言えるのです。

 しかし、「しばらくの間、上手くいけばいい」とか「小言を言うと嫌がられるのではないか」といったような甘い考えでは、厳しいことは言えません。

 前回も述べたように私には人生の師匠がいます。残念ながら8年前に99歳で亡くなった藤本幸邦先生です。

 先生は、長野県篠ノ井にある円福寺という曹洞宗のお寺のお坊さん(晩年は大本山永平寺の最高顧問も務められた)でしたが、戦後すぐに、戦災孤児たちのための施設「愛育園」を開設するとともに、全国の曹洞宗のお寺に戦災孤児を一人ずつ預かるようにという運動を始めました(「愛育園」は今でも恵まれない子供たちの施設として円福寺にあります)。

 先生は、その後もボランティア活動を続け、中国、カンボジア、バングラデシュなどに学校を建て、アフリカの奥地に大きな水のタンクを贈るということもされていました。

 アフリカの奥地では今でも、水汲みのために学校に行けない子供たちが多くいるのです。信州大学や新潟大学に通う恵まれない地域からの留学生に、本を毎年1万円分買って支援するという活動も行ってこられました。

 私は、先生のボランティア活動の東京事務局長を今でもやっています。先生は90歳を過ぎても、飛行機に乗り海外でのボランティア活動をされていましたが、ある時に、私は、藤本先生のエネルギーはどこから湧いてくるのかと考えました。そして、それは「信念」だということに気づきました。

 世界中の恵まれない子供たちを救いたいという信念です。 信念こそが勇気やエネルギーの源泉であるということを私は先生から学んだのです。私たち経営者も、「信念」を持たないかぎり、勇気やエネルギーは湧いてこないのです。

正しい信念を持つために必要なこと

 正しい信念を持つために、私がお薦めするのは、何千年もの長い間、読み継がれた本を読むことです。

 例えば『論語』や『老子』などの中国の古典や、『聖書』や『仏教聖典』でもいいでしょう。多くの人が正しいと信じて長く読み継がれた本です。そうした本には、真理があるからです。

 原典に当たるのは難しくても、今は読み下した良書が沢山あります。最近の方の本であれば、松下幸之助さんや稲盛和夫さんなど、多くの人が素晴らしいと認める方の本を読み、それを実践することで「正しい信念」は身に付いていくのです。

 こういう良い本を何度も何度も読むことです。一度読んで分かったつもりではダメなのです。

「正しい信念」がない経営者は、どこかでコケます。間違った信念であっても、持っていれば勇気やエネルギーは出るのです。そんな人たちだって、一時は稼ぎます。

 でも、しょせん独りよがりの間違った信念ですから、塀の中に落ちる人もいるのです。 「正しい」という意味は独りよがりではなくて、何千年もの間多くの人に支持されてきた思想、つまり真の成功と幸せのための思想を身に付けるということです。これは、人間として一番大事なことでもあります。

 ビジネスで成功するしない以前の問題です。けれど、ビジネスもまた人間の活動の一つですから、会社の成功も、リーダーが正しい考え方を持っているかどうかにかかっているところがすごく大きいと言えます。

 きれいごとのように聞こえるかもしれませんが、そのきれいごとを真剣に追求できる人が本当に成功するのです。

 私が多くの会社や多くの人を見てきて間違いないと思っていることです。

良い本を繰り返し読む

「正しい信念」は、一朝一夕には身に付きません。勉強あるのみです。長く読み継がれている本や、多くの人が「良い本だ」と認める本を何度も読むことをお薦めします。それを積み重ねていくことが大切なのです。

 ここで何から読み始めて良いか分からないという方のために、いくつか紹介しておきましょう。私がいつも薦めるのは、松下幸之助さんの『道をひらく』です。

 私は25年近く読み続けています。自宅の勉強机の上に置いてあり、寝る前に必ず読みます。見開き2ページで1項目が読めるので読みやすく、何度読んでも新鮮で、自分のブレをただすのにとても役立っています。稲盛和夫さんの『生き方』もとても良い本です。

 その他にも、良い本は沢山あります。渋沢栄一翁の『論語と算盤』や安岡正篤先生の書かれた『論語の活学』などもお薦めです(詳しくは、拙著『ビジネスマンのための「読書力」養成講座』ディスカヴァー携書、に詳しくありますので、参考にしてください)。

 私がお薦めする本が、皆さんそれぞれにぴったり合うかどうかは分かりません。大切なのは、自分に合う本を見つけることです。

 ただし、繰り返しになりますが、長く読み継がれた評価の高い本であることが重要です。

 結果的に長く繁栄している会社、長く尊敬されている人というのは、正しい思想、正しい信念を持っています。

「正しい」というキーワードが大切なのです。信念はもちろん、それが「正しい」ものでないと、上手くいきません。

 皆さまの今後のご成功をお祈りしています。

小宮一慶(こみや・かずよし)
経営コンサルタント
株式会社小宮コンサルタンツ代表取締役会長CEO
十数社の非常勤取締役や監査役、顧問も務める。
1957年大阪府堺市生まれ。京都大学法学部を卒業し、東京銀行に入行。84年から2年間米国ダートマス大学経営大学院に留学し、MBA取得。帰国後、同行で経営戦略情報システムやM&Aに携わったのち、岡本アソシエイツ取締役に転じ、国際コンサルティングにあたる。その間の93年初夏には、カンボジアPKOに国際選挙監視員として参加。94年5月からは日本福祉サービス(現セントケア・ホールディング)企画部長として在宅介護の問題に取り組む。96年に小宮コンサルタンツを設立し、現在に至る。2014年より、名古屋大学客員教授。
著書に『社長の教科書』『ドラッカーが「マネジメント」でいちばん伝えたかったこと。』(ダイヤモンド社)、『どんな時代もサバイバルする会社の「社長力」養成講座』『ビジネスマンのための「発見力」養成講座』『ビジネスマンのための「数字力」養成講座』『ビジネスマンのための「読書力」養成講座』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『「1秒!」で財務諸表を読む方法』『図解キャッシュフロー経営』(東洋経済新報社)他、100冊以上がある。

※連載は、今回で終了します。