プロダクト・エクステンションの代表的な手法としては、以下の3つがあります。

①ターゲット市場を再定義する
②再定義した市場に適合する製品に改良する
③新たな市場と製品に合わせたマーケティングを展開する

ウイスキーは「ちびちび」飲むもの、
というイメージを一新!

 サントリーもこの3つの手法を組み合わせ、ウイスキーを見事に復活させました。具体的にどのような施策を実行してきたのか、詳しく解説していきます。

①ターゲット市場を再定義する⇒「とりあえず」の地位をビールから奪う

 かつてのウイスキーは、サラリーマンが2軒、3軒とはしご酒をしたカラオケスナックで飲んだり、クラブやバーの落ち着いた雰囲気で飲んだりするものでした。ところが最近の若者は2軒目に足を運ぶことは少なくなりましたし、会社で上司が部下を誘って飲みにいくということもめっきり減っています。また法人需要の減少でクラブやバーの経営も厳しさを増すばかり。これではウイスキー消費量の減少も無理のないところです。

 この状況を打破する最も効果的な手段は、1軒目で最初に注文される立場をビールから奪い取ることです。そこに勝機を見つけたサントリーは、ウイスキー市場をかつての2軒目、3軒目の飲み物から1軒目の1杯目の飲み物にするべく、②製品の改良や③マーケティングの展開を進めました。

②再定義した市場に適合する製品に改良する⇒ハイボールの投入

 日本でのウイスキーの代表的な飲み方は水割りかロック、ストレートといったところ。炭酸飲料で割るハイボールは古くからある飲み方ですが、日本ではあまり広がっていない飲み方でした。しかし、1杯目の座をビールから奪い取るための飲み方としては、ハイボールはもっとも適した飲み方です。ビールのように苦くなく、カクテルのように甘くなく料理にも合う。アルコール度数も強過ぎず、弱過ぎず、しかもハイボールは消費者の認知度が低かったことが、逆に新しさを感じさせることができるという効果もありました。

③新たな市場と製品に合わせたマーケティングを展開する⇒効果的なマーケティング・ミックスの構築

 ハイボールで1杯目需要を取り込むためにサントリーは、さまざまに工夫したマーケティング戦略を実施しました。マーケティング巧者のサントリーの能力と行動力が大いに発揮される分野です。

 まず特徴的なことは、ビールと同じようにジョッキで飲むスタイルを提案したことです。それまでのウイスキーは軽いつまみと一緒にロックグラスでチビチビ飲むのが主流でした。それをジョッキでゴクゴク飲むスタイルにすれば、食事との相性もよくビールの代替になります。

 味、品質面はハイボールを実際に提供する店舗によってバラつきが出ないような工夫も施しています。そのために導入したのが、ビールサーバーに似た専用サーバー「角ハイボールタワー」でした。角ハイボールタワーを使えば、簡単に理想的な濃さのハイボールを提供することができます。