価格面では競合するビールのジョッキや缶ビールよりも若干安い価格帯にし、低価格志向の消費者に訴求しました。商品ラインナップとしては、最初に「角ハイボール(略称:角ハイ)」を発売し、2010年9月には、第2弾として低価格帯の「トリスハイボール(略称:トリハイ)」を投入。サントリーが国産ウイスキーで正式に商品化しているのは、この2種類ですが、それぞれの飲食店では、高価格帯の山崎(ザキハイ)や白州(森香るハイボール)をハイボールにした商品も提供されています。
テレビCMでは、「角ハイボール」では小雪さんを起用、「トリスハイボール」では、吉高由里子さんを起用。それぞれのターゲットに合わせたタレントを起用するとともに、ハイボールを飲むシチュエーションを想起、提案するような広告に仕上げています。
ビールで苦戦していたサントリーならではの戦略は、
見事な副次効果も生まれた
サントリーのプロダクト・エクステンションの最大の成功要因は、「とりあえず」の地位に狙いを定め、飲食店の協力を勝ち取ったことです。「とりあえず」の王者、ビールではアサヒとキリンの2強がしのぎを削っています。サントリーもシェアを上げているとはいえ、2強とはまだまだ大きな差があり、それをひっくり返していくのは至難の業です。一方でウイスキーではサントリーがガリバー企業の地位にいますので、ウイスキーの販促でまったく新しい提案であれば飲食店の協力も比較的得やすかったのでしょう。
こうして展開されたハイボール作戦の効果で、サントリーのウイスキーの販売量は2010年には前年比+17%を記録。20年以上にわたる長期低落傾向からの脱出を果たしています。
また、ハイボール人気の拡大に合わせて、サントリーでは炭酸水の「サントリーソーダ」を2010年の3月に全面リニューアルして発売しました。新商品は自宅でハイボールを作るのに適した商品になっており、ライバル商品を抑え現在では炭酸水の中でトップシェアを獲得しています。そんな副次的な効果もありました。
消費者の嗜好やライフスタイルの変化でニッチな商品になっていた、ウイスキー。そんな存在のウイスキーでも、今の消費者にあった飲み方が提案できれば、需要を伸ばすことができる。マーケティング巧者、サントリーの本領を存分に発揮した「ハイボール戦略」です。