『アナリストが教えるリサーチの教科書 自分でできる情報収集・分析の基本』を上梓した、アナリストの高辻成彦さんに聞く、ビジネスリサーチの基本とは? 連載最終回となる第10回では、この連載や、本を読んでいただいたみなさんからの反響をふまえて、リサーチについて総括的に解説します。
この記事や本で触れていることは
すべて基本的な内容です
このコラムや本で触れていることは、ビジネスリサーチのごく基本的な部分です。
すでにリサーチの現場で活躍されている方にとっては、新しいことはないでしょう。
でも、やり方を教えてくれる人が周りにいない人も多いと思います。
今回は、そういった立場にある方に対して書いています。
意外と知らない、という反応が多かったのが、連載の第3回で紹介した移動平均で見る方法や、第4回や第5回など、経済統計や市場シェアにどんな情報源があるか、でした。
移動平均で見る方法は、たとえば、農業機械業界であれば12ヵ月平均、半導体製造装置業界であれば3ヵ月平均などが、よく取り上げられています。
井関農機の決算説明会資料では、農業機械の業界出荷額を12ヵ月平均で算出して、トレンドを表しています。
また、日本半導体製造装置協会では、半導体製造装置やFPD製造装置の業界販売額を、3ヵ月平均値で公表しています。
国内シェア調査の結果は
7月24日に掲載されました
7月7日にアップした第5回では、市場シェアのつかみ方について取り上げました。
日経産業新聞に、世界シェア調査、及び国内シェア調査の結果が、例年7月前後に掲載されると紹介しました。
世界シェア調査は、6月26日付の日経産業新聞に57品目掲載されましたが、国内シェア調査は、7月24日付の日経産業新聞に100品目掲載されました。
貴重な情報ですので、ご参考にしていただければと思います。
掲載日は例年、不定期ですが、7月前後の日本経済新聞の朝刊をウォッチしていれば、掲載のタイミングはわかります。
理想は情報のベクトルが
読めるようになること
リサーチ力を養うには、第9回で紹介したような方法で訓練して、経済記事の内容が、即座に読めて、自分なりの見方(分析)ができるようになることです。
慣れてくると、専門家のコメントにも、ベクトル(自分の主張)が加味されていたり、よく確認せずに情報発信していることも往々にしてあることに気づくようになります。
これは、いわゆる有識者と呼ばれる方が、必ずしも、どんな分野にも精通しているわけではないからです。
有識者も万能ではないですから、限界はあるのです。
発信者のベクトルに気づきやすい例としては、政治の記事です。
大手新聞社の発信する内容は同じではなく、新聞社によって、主張がはっきりと違いますよね。
結果として、同じことを取り上げているのに、新聞社によって違う伝え方をする、という事態が起こり得ます。
経済記事においても、たとえば経済学者の主張も、景気優先派と財政再建優先派の方では異なってくるケースがあると思います。
自分で調べてチェックする
文化の定着を
そもそも、ネットやメディアに出ている経済記事の情報のすべてが正しいとは限りません。
特に、ネット記事では、紙媒体より早く情報発信がしやすい反面、裏付けを取らずに出しているな、と感じる記事を見かけることがあります。心を痛める限りですが、十分な裏付け取材ができていないのでしょう。
ひどいものでは、取り上げている企業自体が違う、なんて記事を目にしたことがあります。上場企業の決算について書いた記事だったのですが、よく見ると、同名の非上場企業の事業内容について書かれていました。
そんな、情報のよし悪しの選別を迫られる環境においては、「専門家の○○さんが言った主張が正しいと思う」ではなく、「自分で調べたら□□だったから、専門家の○○さんが言った主張については△△だと思う」、と言えた方が、自分の土俵で話せてスッキリするじゃありませんか。
これまでのこの連載や拙著『アナリストが教えるリサーチの教科書 自分でできる情報収集・分析の基本』をきっかけに、世の中でもっと、自分で調べてチェックする文化が定着すれば、と願うばかりです。
これまで全10回にわたる連載におつき合いいただき、ありがとうございました。
リサーチの詳細につきましては、本をご参照いただければ幸いです。