2016年3月に長年勤務していた東大病院という組織を離れ、現在はどこにも所属することなく、「ひとり」という状態を満喫している矢作直樹医師が、『今を楽しむ~ひとりを自由に生きる59の秘訣』で率直に語った、「ひとりは寂しい」という世間の思い込みに振り回されることなく、ひとりであるという自由な時間を有意義に過ごす秘訣を紹介します。(初出:2017年7月27日)

孤独を楽しむ

ひとりを愛することで得られる
貴重な感覚がある

矢作直樹(やはぎなおき)
1956年、神奈川県生まれ。81年、金沢大学医学部卒業。その後、麻酔科を皮切りに救急・集中治療、内科、手術部などを経験。99年、東京大学大学院新領域創成科学研究科環境学専攻および工学部精密機械工学科教授。2001年、東京大学大学院医学系研究科救急医学分野教授および医学部附属病院救急部・集中治療部部長となり、15年にわたり東大病院の総合救急診療体制の確立に尽力する。16年3月に任期満了退官。著書には『人は死なない』(バジリコ)、『天皇』(扶桑社)、『おかげさまで生きる』(幻冬舎)、『お別れの作法』『悩まない』『変わる』(以上、ダイヤモンド社)など多数がある。
撮影:松島和彦

 孤独感を手放すというのは、自分ひとりではなく、すべての人が孤独だという事実に気づくことです。

 すると、孤独を愛することができるようになります。

 その結果、次の「5つの感覚」を獲得できるようになるのです。

 (1)寂しいと感じることがなくなる
 (2)瞬間、瞬間を楽しめるようになる
 (3)ただ生きているだけで幸せと思えるようになる
 (4)何かに困るようなことがなくなる
 (5)どこに所属しても、あるいは所属しなくても、気にならなくなる

 私はここでは、「ひとり力(りょく)」というのは「あるがままの自分と、決めるのは自分であることを認める力」であると論じています。「ひとり力」を持つことで、自分がどんな状況に置かれても怖くなくなると信じています。現に私自身がそう思っています。

 そのためには、この「孤独を愛せるようになってわかる5つの感覚」を得られたらいかがでしょう。

 この話を書きながら、浮かんできたことがあります。

 今はある意味「先入観を持たない」若い世代の人が増えてきたようです。10代はもちろん、20代も30代も、ピュアな人が多く、上の世代が当たり前としてきたことに対して平気で「なぜ?」を突きつけます。

 先輩や上司が帰るまで、タイムカードを押して帰ってはいけないという不文律があったとしても、若い世代は「そんなことは意味不明」と考え、平気で帰ります。

 もちろん、帰っていいのです。上の世代がそんな行動を維持して「縦社会」を継承してきただけの話であり、会社の業績には影響しません。

 マイペースすぎるとか、何を考えているのかわからないなどと批判を受ける世代でもありますが、そういう「ベタッとしない」気質、媚びへつらうことのない気質を私は逆に好ましく感じています。

 そんなベタッとしないはずの若い世代が、ひとりでいる人間を「ぼっち」とからかうような言葉を作り出したのには、ある理由を感じます。

 思うに、ひとりでいることを好む人が増えているのではないか、と。

 からかう側にしても、いつも複数でいる、集団内の空気を読み合う、そんな状況に気疲れしているはずです。だからこそ、自分と同じ世代で増え始めた「孤独を楽しめる人」が、どこかうらやましいのではないでしょうか。

「なぜ、ひとりでいてはいけないのか?」

 そう感じる人、先入観を持たない人が、増えているのではないでしょうか。

 職場でも友人同士でも、べったりとくっつくのが嫌な人こそ、ひとりのよさを享受できるのではないでしょうか。ひとりのよさ、メリットを十分に享受しつつ、複数や集団でも最低限のコミュニケーションをとれる人。ひとり力を発揮できる人とは、そういう人です。そして、こういう人が、次の新しい社会やその仕組みを作る人たちなのでしょう。