心をコントロールできなければ、つまり、心を立ち止まらせ「求めない」状況を維持できなければ、調和は達成できず幸せにはなれない、と皆がわかり始めている。だから禅や瞑想が流行る。

 実は2000年ごろ、香港の大富豪が日本のIT会社を買いに来たときに、そういう話をしていた。「金を持つことによって、逆にコントロールするべき心を大きく育ててゆくことが求められる、そっちのほうが辛いんだ」――。

 大ヒットとなった映画『ハゲタカ』でも、同じようなエピソードが出てくる。主人公が次のように言うのだ。「世の中の不幸は二つしかない。“お金のある不幸”と“お金のない不幸”だ」――と。

 どちらも、お金と心が一体化していないことによって生まれる不幸のことである。

幸福というのは
「期待と実態が一体」の状態

 では、結局のところ幸福とは何か?

僕は幸福とは、「期待と実態が一体な状態」のことであると思う。

 何かがある、ということが幸福なのではない。ないことが、不幸なのでもない。自分の想像や期待と、実情や実態が一致しないから人は不幸なのである。

日本の不幸は、金がないことではない。期待が高いことである。日本人の幸福感が低いのは、自分に近い人と比較して相対的に不幸だと感じるようになったからだ。

 世界の他の国、特に欧米では、一般的に社会は階層化され、皆、それぞれの出自や能力の範囲内で楽しく暮らしている。他の階層と比較することは少ないから、自分の立場を嘆くこともない。