低所得層ほど糖質に走る理由
――なぜスーパーでピザは大量に安く売られているのか?
日本では、女性に比べ男性の肥満が増えています。とくに、働き盛りの30代以降の男性に肥満が目立ちます。肥満が増えるということは、そのまま糖尿病も増えるということ。また、糖尿病の患者さんはがんや心筋梗塞など命に関わる病気にかかりやすいことがわかっています。
私が専門医になった頃、日本における糖尿病の患者さんは成人の100人につき1人くらいに過ぎませんでした。それがいまでは、糖尿病が強く疑われる人の割合は、男性で19.5%、女性で9.2%にも上ります(厚生労働省「国民健康・栄養調査」平成27年度より)。さらに、自分では把握できていない人も含めれば、その数は相当に高くなると考えられます。
こうした現状を前にして、「私たちの生活が欧米化したからだ」と単純に判断してはなりません。
「欧米化」にもいろいろあります。自動車が普及して運動量が減ったことや、コーラのような清涼飲料水が飲まれるようになったことは、間違いなく糖尿病増加の原因です。一方で、肉を多く食べるようになったことなどは関係ありません。
かつて糖尿病は「贅沢病」と呼ばれ、美味しいものをたらふく食べている人がかかる病気だと思われていました。しかし、それは過去の話。日本人の多くがお腹いっぱい食べられないでいた飢餓の時代の話です。
いまでは、むしろ貧困層に糖尿病が増えています。彼らは炭水化物の摂取量が多い傾向にあるからです。
アメリカのスーパーマーケットに行くと、巨大なピザが10枚くらいセットになったものが売られています。栄養バランスはよくないのですが、安く手軽でお腹がいっぱいになるため人気です。そして、そういうものを常食している人たちに、肥満も糖尿病も、ほかの怖い病気も増えています。
これは世界的傾向で、日本でも同様の流れになりつつあります。戦後まもなくは、多くの日本人にとって「白いごはんをお腹いっぱい食べること」が夢だったはずです。たまにその夢をかなえたからといって、糖尿病になることなどありませんでした。
しかし、いまは毎日だってできます。毎日3食、白いご飯を山盛り食べることが、ほとんどの日本人に可能です。そして、実際にやっている人もたくさんいます。
ところが、私たちのDNAは、白いご飯をたらふく食べることに対応していません。私たちの祖先は、採集した木の実などのわずかな食糧を食べ生き残ってきました(詳しくは第4回 参照)。そのDNAを引き継いでいる私たちが「勝手に食べ物を変えてしまった」のが、今日の不健康社会の原因だと私は考えています。命の基本となる食べ物を、いたずらにいじってしまうことは、恐ろしいことなのです。
稲作が可能になってからも、私たちの祖先は白米ではなく玄米を食べていました。白く精製した食べ物などこの世になかった。ましてや白い砂糖や、砂糖を溶かしただけの飲料水などありませんでした。
これらをつくったのは、産業革命以後の現代人です。そこには、「美味しいから」という理由だけでなく、「儲かるから」という企業論理が存在することを忘れてはなりません。知的なビジネスパーソンが、それにのせられている場合ではないのです。
(この原稿は書籍『医者が教える食事術 最強の教科書――20万人を診てわかった医学的に正しい食べ方68』から一部を抜粋・加筆して掲載しています)