「株主でよかった」と言われるのが経営者の快感

朝倉:enishでもマザーズを経て東証一部への上場を主導なさってますよね。2回も上場を経験したという方は世の中にほとんどいないと思うのですが、何か意識してらっしゃった点はありますか?

杉山:上場自体は審査に通るかどうかですから、必要なのは公器として求められるガバナンスや運営体制をどう整えるかです。もちろん、業績と成長性の裏付けがあってのことですが。enishでは、最初から東証一部の上場審査に耐えられる体制を作ろうと考えてマザーズに上場しました。これはザッパラスでマザーズから東証一部にステップアップした時の学びとして、なるべく早めに仕組みをしっかり作り、それから組織を広げたほうが楽だということがあったからです。

ゲーム会社はゲームのことがわからなくても経営できる【杉山全功さんに聞く Vol.2】

朝倉:スタートアップの経営者はゼロからプロダクト開発に携わってきた創業者が多いですが、上場後に経営者としての役回りでの負担は大きくなりますよね。中にはそうした負担を好まない方もいますが、杉山さんの場合はそうした役回りを創業者に代わって負っていたということになりますね。

杉山:僕の性格や思考が、それをやるのに合っていたのでしょうね。上場するとIRや株主対応というのが公の役割として必要になりますよね。楽じゃないけど、それが上場企業の社長の仕事だという感覚ではあるので、僕は特に苦にはなりません。

 もともとのメンバーがいて、プロダクトについてはその人たちに任せて、それ以外の部分は任せてもらう。もちろん結果の数字は見ますけど、細かい作りまでは見ていなくても任せられる体制を作る。そういうことのほうが、プロダクトを作ることよりも自分に向いているんですよ。

朝倉:「上場請負人」とも呼ばれる杉山さんですが、経営を専門に手がけていらして感じる楽しみや喜びといったものはありますか?

杉山:上場すると、たまに「???」な質問や意見が株主から来るときもありますよね(笑)。 若手のスタートアップの人なんかはそれを嫌がることもあると思うんですが、株主が会社のことを本当に嫌いだったら、わざわざそんなこと言わずに株を売ってしまうわけですよ。だから、言ってくれるだけありがたいと思って謙虚に受け止めるのがいいよ、と。

 逆に、そういう人に「持っててよかった」って言われたときは快感ですよ。上場企業の経営者冥利ってそこにあると思うんです。

朝倉:タイガースファンが選手を野次っているようなもんなんでしょうね(笑)。興味がなくなったらわざわざ球場まで来てくれないんですから。とやかく言われる方がまだありがたいのかもしれませんね。

*次回【杉山全功さんに聞く Vol.3】自分より優秀な人材を採用できないと経営者は失格 に続きます。
*本記事は、株式公開後も精力的に発展を目指す“ポストIPO・スタートアップ”を応援するシニフィアンのオウンドメディア「Signifiant Style」で2017年10月5日に掲載された内容です。